しゅんかみ

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのしゅんかみのレビュー・感想・評価

5.0
3時間26分という、いくら映画が好きでも怯んでしまう長さですが、観ている間ディカプリオと一緒に事態に絡めとられている感覚になって、一瞬も飽きる時間がなかった。
(全世界でもまだ公開されていないこの作品を、貴重な試写会で鑑賞の機会をいただいたTBSラジオ・アトロク2、東和ピクチャーズ、フィルマークス関係者の皆様ありがとうございました)

今年のベストかなと思っていた『ジョン・ウィック コンセクエンス』も長かったですが、それよりさらに30分以上長いのに、この息のつかせなさはすごいと思う。あえて言えば『コンセクエンス』よりダレる場面が無いです。

原作であるノンフィクション『花殺し月の殺人』は、カンヌ映画祭への出品で話題になった頃に題材が気になったので既読の状態で鑑賞しました。
まずこの原作からして読む手が止まらなくなるほど面白い(というのを手放しで言うのは憚られる内容ですが)。

映画も、この本に詳細に書かれているアメリカ先住民であるオセージ族の連続死事件を描いていくストーリーですが、まず前提となる状況からして酷すぎる状況なので、これを知っておくと映画の序盤の状況がわかりやすいと思うので解説というほどまとまってないですが書いてみます。

オセージ族はもともとカンザスやオクラホマの広大な土地を居住地としていたらしいですが、アメリカ建国による白人の移住により土地を追われて、映画の舞台となるオクラホマの一角に押し込められる。映画『ウインド・リバー』とかでもでてきた「保留地」ってやつですね。

ところが、その土地から石油が採掘されることが分かったことにより、今度は石油会社が土地をオセージ族から賃借して採掘事業が始まり、オセージ族はそれこそ世界で一番豊かな部族となっていた。
しかし、その財産に関しても、インディアン管理事務所がオセージ族の人々を財務管理能力のない「無能力者」と決めつけて、白人の後見人を置かれていた…

これだけでもほんとうに酷い話すぎて、本を読んでて戦慄しました。

それでやっと映画の話ですが、このいくらでもセンセーショナルにできそうな話を、殺人のシーンはできる限りあっさりと、無機質に描かれているのが逆に「こんなにあっさりと」という恐怖も感じる上に、この実話を映画化するにあたってとても誠実だなと思いました。

それでいてジトっとした緊張感と「何か嫌な感じ」がまとわりつく感じが3時間持続するので、ひっくるめてやはり「ものすごく面白い映画」になっていると思います。

そしてなにより、この現代と地続きであるこの話は、今も完全に解決されているとは言い難いという、ハリウッド映画的な大団円があるわけでは無い着地をするのも、原作の脚色としても映画としても見事としか言いようがないです。

直前に同じスコセッシ監督の『グッドフェローズ』を遅まきながら初鑑賞したんですが、主人公が特にヒーロー的なわけでもなく、状況に流されているだけという意味でも似た話であると同時に、本作のほうが上映時間は長いとは言えさらに洗練されていると感じました。
『グッドフェローズ』の編集のテンポも凄まじいなと思ったんですが、この『キラーズ・〜』はそれすら感じさせずに進んでいく感じ。
宇多丸さんはよくこの編集リズムを「ヒップホップDJ的」と表現していますが、それでいうとこの映画はほとんど繋ぎ目を意識せずに次の曲に移っていき、気がついたら終わっているような感じで、だからこそ飽きる瞬間もなく、体感時間は本当に短かったです。

もちろんディカプリオとデ・ニーロの役柄や演技など、切り口は多様だし、実質的な主人と言ってもいいモリー役のリリー・グラッドストーンも、今後絶対色々な映画で活躍することは間違いないと思います。

この映画を観ると「長い映画こそ映画館で観るべき」とすら思えてくるので、絶対劇場での鑑賞をおすすめします。
水分補給とトイレ対策を万全にして是非劇場に観に行ってください!