ゴトウ

新聞記者のゴトウのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
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なんか、どう受け止めたものかわからない映画だった。スッパリフィクションと思って観ていれば楽しめるのかもしれないが、あまりに事実と近接(事実に基づくわけではないところがまた)しすぎてて…。

明らかに伊藤詩織氏なのに後藤さんになってるし、望月衣塑子氏なのに吉岡さんだし、赤木ファイルが羊ファイルになってる。の割に、前川喜平や望月衣塑子本人がやたらに画面に現れる。この映画は一体どう観られることを想定しているの?実際にこんな酷い腐敗と、それに立ち向かうジャーナリズムの戦いがあるのですよという話ならそのまま名前や出来事を使えば良いし、腐敗権力一般/ジャーナリズム一般を想起させる程度のエンタメがやりたいならもっとデフォルメするべきで、望月氏や前川氏らが顔を出して出てくる意味がわからない。

で、生物兵器?バイオテロ?みたいな話になってきちゃうともうそれトムクルーズとかブルースウィリスを呼んでくる話になってこない?本当に加計学園獣医学部がそのような目的で設立されようとしていたっていう裏取れてるのかね?社会正義についての問題提起をすることと、陰謀論をぶち上げることは別のはずだし、現実に起きた出来事と被せていっただけにまさしく本当に「誤報」ってことになっちゃうんだけど。田中哲司のサイコ殺人鬼みたいな描写も含め、そんな風にわかりやすく一枚岩の悪の組織がいたらまだマシなんじゃないのかとも思わされる。こういう風に事実と妄想・陰謀論を境目なく使いつつ過度に単純化された世界像を描くのは、ネトウヨ→Jアノン(あるいはトランピスト→Qアノン)と先鋭化していく人たちの言説とどう違うのか。この辺りが望月氏、ひいてはTwitterデモを主導するようなネット上の(あるいは現実の?)リベラルが「パヨク」「アベガー」と冷笑される理由の一つなんじゃないのか〜?モヤモヤするわあ〜。

あと望月氏のルーツに日韓ハーフであるとかそういう情報は見つからないのだけど、なぜそういう絶対になってるんだろう。ラストシーンにせよなぜか英語詞の主題歌にせよ、隠された真実を暴く!みたいなスタンスの作品が適当に濁すなや!とも思ってしまった。「なんて言ったのだろう?と想像させたい」みたいなことなのかね?だとしてもはぁ?って感じだけど。こういう役を日本人女優にやらせると、主に保守的な人に嫌われかねないという「忖度」(それを非難してるんとちゃうんかい)があったのか。事務所の方がやらせたがらなかったのか。もう望月氏としか受け取れない演出だから勘繰ってしまうわ。

あとこういう内容の割にインターネット空間(というかTwitter)の描写の解像度が低すぎ!『3年A組』ならこれくらいでもいいけど、アホしかやってないものと捉えてるなら望月氏…じゃないや吉岡氏がやってることもアホの一員ってことになっちゃうけど大丈夫?最後の謎英語主題歌で決定的に首を傾げたくなってしまった。ポリティカルな作品、日本だって撮れるよ!とこの映画を観て素直に言うのは無理。「やはりハッシュタグで政権の腐敗と戦わねばなるまい!」となる層と「いや〜面白かった、ちょっとしか出てこないけど本田翼かわいかったね」となる層が同じくらい高く評価しそうな感じ。裏取ってないけど。事実と虚構の気持ち悪い距離感さえなければ面白い映画だったと思うけどなあ。
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