カツマ

屍人荘の殺人のカツマのレビュー・感想・評価

屍人荘の殺人(2019年製作の映画)
3.7
創出されたクローズドサークル。それはミステリ界を震撼させた未曾有の一手、類まれなる悪魔の密室。その中にはまだ生まれたてのホームズとワトソンがいて、死臭の奥に潜む殺意と対峙する。確実に犯人はいる。しかし、その混乱の最中で果たして真実を追い求めることなど可能なのか?屍人荘はその名を貪るようにただ聳えていた。

原作は第18回ミステリ大賞受賞など、その年の賞レースを総なめにした今村昌弘による同名小説である。斬新すぎるプロット、まさかのクローズドサークルなど、従来のミステリの固定概念を覆す大技が炸裂した作品で、ミステリ界に一大金字塔を打ち立ててみせた。この実写化では神木隆之介、浜辺美波、中村倫也、という人気俳優を並べ、ややコメディタッチの物語へと舵を切っていて、大胆な脚色を上手く2時間にまとめているという印象だった。

〜あらすじ〜

神紅大学のミステリー研究会に所属している葉村譲と明智恭介は、大学内でホームズ&ワトソンと呼ばれている有名コンビ。だが、実際は難事件を解決に導いたことなどなくて、ミス研は自称名探偵の明智とミステリオタクの葉村、二人だけのサークルだった。
そんな折、推理合戦を仕掛けてきた美女、剣崎比留子に誘われて、葉村と明智は大学のロックフェス研究会の宿泊イベントに参加することとなった。それはイベントに謎めいた脅迫状が届いたことから端を発しており、昨年の同イベントでは女生徒が一人、行方不明となる事件も起きていた。そこで大学のホームズ&ワトソンの出番となったわけだが、実は剣崎こそが警察に協力して難事件を解決してきた真の名探偵だったのだ。明智vs剣崎の名探偵バトルと共に、イベントは夜のフェスティバルへの参加へと向かい始めていて・・。

〜見どころと感想〜

大枠の物語については、阿鼻叫喚の遍歴を辿る原作をそのままなぞっているが、細かい点で修正が加えられていて、不要(と思われる)ポイントは律儀に切り落とされている。とりあえずは絶対にネタバレは踏まずに観てもらいたい。何しろ序盤から中盤への超展開が本作の醍醐味であり、そこにこそ、大胆不敵なトリックのタネが隠されている。強烈な飛び道具はあるが、あくまでミステリのスタイルを貫いてくれるため、シンプルに犯人探しを楽しんでもらいたいとも思う。

主演の神木隆之介、浜辺美波、共に、原作のイメージを大きく逸脱することはなく、ハマり役を演じている。特にコメディ要素を担っている浜辺美波のド天然キャラクターがなかなかに可愛い。これは原作には無かったポイントなので、TRICKのようなシュールな世界観とも仄かにマッチしている。明智役の中村倫也も楽しそうに演じていて、映画全体の朗らかな雰囲気を更に後押ししている。

だが、そのコメディ要素は映画をエンターテイメントにしようとするあまり、本作からシリアスな側面を奪ってしまった。何しろ、青春ミステリとしては設定がハードなため、主人公二人の修学旅行のようなイチャつきははっきり言って不似合いである。主人公の心理にある十字架も特に明かされず、外部と内部の温度差の隔たりにはさすがに違和感を禁じ得ない。

更に残念だったのは劇中の音楽。特に終盤の山場で、素っ頓狂なシンセポップが奏でられた時にはさすがにズッコケそうになった。R指定を突破するためのレントゲン効果など、面白い趣向は数多く散見されたので、その代償としてのチープな演出はやや残念にも映った。
それでも諸刃の剣としてのエンタメ性が機能したおかげで、最後まで楽しく観ることができた作品だったことは事実。次作があるとしたら、連ドラの方がいいかも?という想いは余儀ってしまったけれど、、。

〜あとがき〜

話題作の実写化でしたが、原作は既読で、ここ近年のミステリの中でもトップクラスに面白く読めました。あの『仕掛け』が映画にすると安っぽく見えてしまうのが残念でしたが、肝試しを全カットして、フェスのシーンを作ったり、登場人物におっさんとおばさんを加えてみたりと、退屈させないアレンジが満載でしたね。

そしてあのラスト。原作とは微妙に異なるわけですが、やっぱりシリアスさが足りないかなぁ。エンタメ性は買いますが、総合するとキャッチーになり過ぎたアレンジ過多がやや惜しい作品でもありました。
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