カツマ

スウィング・キッズのカツマのレビュー・感想・評価

スウィング・キッズ(2018年製作の映画)
4.4
そのステップは歴史の光と影をタップする。一瞬だけ瞬いたスポットライト、夢のように駆け抜けた日々。それは刹那、フラッシュバックのように永遠となり、悲劇に塗り潰された儚き記憶へと変わる。ただ踊りたい、例えどんな出口が待ち受けていようとも。それはそう、もしも時代が違ったら喜劇になれた物語。本当なら涙など似合わぬはずの一縷の享楽。

朝鮮戦争の闇の一端、巨済捕虜収容所を舞台にした寄せ集めダンスチームによる奮闘記!収容所内で激突するアメリカ軍vs共産主義による悲劇の傷跡を曝け出しつつ、そこにダンスという名の微かな希望を添えていく。苦難と悲しみが積み重なるほど、ラストの圧巻のダンスパフォーマンスはどこまでも強く煌めく。監督には『サニー 永遠の仲間たち』のカン・ヒョンチョル。元ブロードウェイのスターダンサー、ジャレット・グライムスを招き、本格派のタップダンス映画が誕生した!息もつかせぬ光と闇の130分、リズミカルなステップだけがその隙間を抜けていく・・!

〜あらすじ〜

1951年、朝鮮戦争真っ只中の韓国。そこは朝鮮半島の最南端に位置する巨済捕虜収容所。普段は穏やかに見える収容所だが、水面下ではヤンキー(アメリカ軍)と潜伏するアカ(北朝鮮の共産主義者達)が対峙しており、一触即発の状態だった。そこに鳴り物入りでやってきたのは北朝鮮軍の英雄の弟ロ・ギス。破天荒な彼はアメリカ軍のダンスナイトに侵入し、散々掻き回していく始末。そんな彼はさながら捕虜達のスターだった。
そんな折、新しく就任した所長は捕虜たちに飴を与える容量で、ダンスチームを結成するよう呼びかける。その任を請け負ったのは元はブロードウェイのスターダンサーだった男、ジャクソン。
早速ジャクソンは捕虜を面談してダンサーを募るも、やる気に満ちていたのは勘違いで収容されたビョンサム、中国人の踊り手シャオパン、そして4ヶ国語を喋れる金にがめついパンネの3人のみ。そこへたまたま居合わせたギスは、ひょんなことからジャクソンとのダンスバトルに発展することになり・・。

〜見どころと感想〜

タップダンスを軸にしたエンタメ要素と、朝鮮戦争の暗部を照らすドラマ要素が絶妙に配合された作品だ。そのためストーリー展開はかなり早く、けたたましいほどの性急さで場面は転換。ラストのタップダンスのシーンまでジェットコースターのごとく駆け抜けてくれる。
それほどの没入感を生むのはやはり圧巻のダンスシーンにある。ミュージカルのように頻繁に差し込まれるダンスタイムが、暗澹とした時代に軽快なリズムを生み、重さを引きずらない効果をあげている。タップダンスに合わせて横滑りするカットも見事で、音楽と映像のシンクロ率は抜群に高かった。

主演のギス役には『神と共に』などに出演し、俳優としてもノリに乗っているD.O.。彼のダンスシーンは迫力満点で、本場のダンサーであるジャレットとのバトルでも遜色ないほどの熱狂を生む。
またスウィングキッズの紅一点パンネ役を演じたパク・ヘスは、実際に語学堪能な才女であり、今後が楽しみな逸材だ。

この映画はよくありがちな寄せ集めチームがドタバタしながら大きなステージへと飛び立つ!という話ではない。そこにはあくまで戦争中のリアルがあり、完全には繋がれないアメリカ人との距離感も綺麗事無しに描かれていると思う。ラスト20分で炸裂する明暗入り混じるスパイラルに目が回りそうになりながら、彼らが魅せたあの一瞬の煌めきを永遠のように感じていたい。

〜あとがき〜

周りの評判がかなり良く、期待していましたが、その期待に見事に応えてくれた作品でした。迫力満点でリズミカルなダンスシーンの連続。序盤からミュージカルさながらの湧き踊るシーンで盛り上げ、それをラストまで高揚感と悲壮感を交互に行き交いながら見せてくれます。

韓国映画らしい時代への肉薄、過激な描写などはもちろん反映されていて、現代の韓国映画のクオリティの高さがこのようなダンス映画にまで発展しているのかと驚愕しましたね。
時代が時代ならもっと違う未来もあったはず、そんなことを想いながら、モンタージュのようなエンドロールを懐かしく眺めるような作品でした。
カツマ

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