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マルモイ ことばあつめのRickのレビュー・感想・評価

マルモイ ことばあつめ(2018年製作の映画)
4.4
 ことばは、人のアイデンティティと分かち難く結びついている。自分が何語を話し、何語で考えているのかは、意識しようが無意識だろうが、存外自分自身の帰属意識を形成している。ことばを奪われることは、即ち自らの尊厳を奪われることである。だからこそ支配する側は奪うのだ。近代的国民国家建設の際に、ことばの持つ力を認識していたからこそ。愚かで恐ろしいことだ。「我々の」ことばを失わないために戦わざるを得なかった人たちの物語は、そのことを教えてくれる。ことばを集めて守ること、それはどんな暴力的な行為よりもずっと尊ぶべき行いである。
 今、日本で日本語でこの映画を見ることの若干の居心地の悪さを感じざるにはいられない。ことばを選ばずに言えば、それほどまでに良くできたエンタメ作品でもある。何をどうしたって重くなってしまう題材を、登場人物たちに感情移入させ、それこそ面白く見させる。ハラハラドキドキしながら、大日本帝国の横暴に怒りを覚えながら、ことばを守らんとする人たちを応援する。韓国ナショナリズムの映画といえばそれまでかもしれないが、そこには言語文化というものに関する普遍的なものがある。ことばを奪ってひとつにするよりも、その数や種類の多さをこそ楽しみたい。
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