本作もアイルランド映画祭で先日感想文を書いた『あのボートに乗って』との同時上映で観ました。と言っても二本立ては二本立てだがこの『レイト・アフタヌーン』はたった10分の短編アニメ。同時上映の『あのボートに乗って』も96分というランタイムなのでまぁおまけの短編というところだろう。
だがしかし個人的にはこの『レイト・アフタヌーン』の方が目当てだったのである。だって本作の制作はあのカートゥーン・サルーンなのだからそりゃ観たいでしょ。監督の名は存じ上げなかったがカートゥーン・サルーンの作品なら間違いあるまいということで観たわけだが、結果的には凄く良かった。流石でした。
まぁとは言っても10分の短編アニメなのでお話もクソもないしネタバレも何もないだろということで全部書くけど、本当にミニマルな短編で後期高齢者であろうと思われるおばぁちゃんがもう痴呆症になって認知がゆるゆるになっているんだけど、ふと紅茶に浸したビスケットがきっかけで過去の記憶が鮮やかによみがえってくるという、それだけのアニメ映画でした。それだけ、とはい言うがしかしそれが素晴らしかった。正に魔法的とでも言うほかないアニメーションで極、ありふれた人生の黄昏の中で起きた僅かな午後の出来事を描き出す手腕はさすがカートゥーン・サルーンのアニメーションと言うしかない。
特に映像を構成する線の柔らかさと色彩の優しい豊かさがとてつもなく良かったですね。最近だとビジュアル面で図抜けていたアニメ映画として『リンダはチキンがたべたい!』や『ペルリンプスと秘密の森』や『窓ぎわのトットちゃん』がすぐに思い浮かぶが本作もビジュアルの鮮烈さはそれらに引けを取らないと思う。わずか10分という尺の中で打ち寄せる波には潮の香りが、駅での別れのシーンでは掴んだ腕の確かさが感じられるのである。それらの表現力が非常に高い水準で発揮されていて実にいいモノを観たなという感じでした。俺自身はまだまだ認知症を患うような年ではないんだけどそこそこ無駄に年齢は重ねているので自分の思い出とも重ねてグッときてしまったな。そういう実感の籠った映像というのが凄かった。決してリアルなタッチのアニメーションではないんだけどね。
そういう感じで良い短編作品でした。面白かった。
そういや一つだけ不思議だったのは主人公のおばぁちゃんだけが首の無いデザイン(胸の上に球体のような顔が浮いている)のは何らかの意図があったんだろうか。いやまぁあったんだろうけどそれはちょっと分かんなかったな。自分の解釈ではこうだ! と言える方がいればコメントでもして教えてください。