ひでやん

アスのひでやんのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
3.6
アメリカ社会の闇を暴き出す社会派ホラー。

オープニングのウサギが不気味で、そこから不穏な空気が漂い続ける。遊園地内のミラーハウスで得体の知れない恐怖を植え付けられ、じわじわと恐怖が忍び寄る、というより、わざわざトラウマがあるその場所に近寄る一家。

ジェイソン、フレディ、チャッキー等、見るものを恐怖に陥れる殺人鬼はどれも好きだが、そこにドッペルゲンガーを持ってくる斬新な発想には参った。自分の敵は「自分」というのは一番怖い気がする。

ドアの向こうに影の4人が立つ場面で恐怖が急加速し、家に押し入った謎の集団が家族を襲った時、恐怖がピークに達した。見せ方が巧いよね、これは怖い。ところが、掠れた声でご丁寧に影の説明をされちゃうと恐怖がダウン。一言も話さない方が怖いのに。

家族が散り散りになり、単独行動になったそれぞれの恐怖に切り替わる展開は緊迫感があって良かった。そしてバトル、バトル。激しい死闘が繰り広げられるが何かが足りない。不気味で不穏な空気は保たれているが、徐々に薄れる恐怖心。前作『ゲット・アウト』で感じた何かが今作にはない、そう絶望感だ。「やつら」がそれほど強くなく、そして家族が強すぎる…。どうせ助かるんでしょ、という思いが終盤まで続いた。

黒人は助かり、白人は皆殺し。人種差別に対する痛烈な皮肉になっているが、「どうせ助かる」と思わせてしまったのがちょっと残念。『13日の金曜日』や『シャイニング』等、数々の名作へオマージュを捧げ、あらゆる場面に伏線を張り巡らすジョーダン・ピール。恐怖の中にユーモアを織り交ぜ、その裏に社会的テーマを描く演出が巧みで、単なるホラーでは終わらない。

演出の中で特に印象的だったのは、地上と地下に分断された世界で格差社会を表し、その入口をエスカレーターにした事。足を乗せただけで勝手に降りていくエスカレーターは、生まれた瞬間に人生が決まってしまう貧困層を表しているようだ。そのエスカレーターは下りしかない一方通行なので、這い上がれない貧困層と上流階級の決定的な格差となっている。

ラストに明かされる「秘密」は薄々感じていたものだったので衝撃はそれ程でもなかったが嫌いではない。ただ、釈然としない所がいくつか残った。設定は面白いんだけどね。
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