たった一人の願いが世界を滅ぼす。
正直、今作に至っては数多くの意味深なアイテムや事柄よりも、恐怖と謎を牽引する役目を担う"地下の存在"に関する設定があまりにもガバガバで、そちらが気になりすぎて考察うんぬんどころの話ではなかった。
ミステリー作品で、その物語の核となる謎に対して"?"が飛び交う状態はもちろん芳しくないのだが、今作ではあまりにそれが多く説明不足や描写不足感は否めない。
また、なにかしらの"メタ構造"だったり"暗喩"があったりは確実にするのだろうが、仮にあったとしてもあまりに不親切な情報量のみの提示である為、それらの真相を読み解く事も出来ず、そんな事も相まって観賞後のモヤモヤが酷すぎて全然スッキリしなかった。
監督の前作はまだ未鑑賞なのだが、サプライズスリラーって語感からしてなんだか飛び道具っぽいニュアンスを感じてしまうのだが、今作を観た感じでは正にその感覚通りで、ワンアイディアをその時の勢いのまま形にしましたといった印象であり、大枠でのセンスは感じるが細かいところは詰めが甘く、非常に粗が目立つと感じてしまった。
特に、地下に幽閉されている影「テザート」達は、地上のオリジナルの行動をそっくりそのままトレースして生活を送っているという設定。
これが、この作品を一番台無しにしていると思う。
例えば、地上では楽しげに遊園地で遊ぶ人々が居るとすれば、その地下ではテザートが何もない空間で、自分のオリジナルと同じ行動だけをパントマイムしている。
この映像から分かる点は、テザートには意思や感情などは無く、ただただ操り人形の如く動きを真似る事しか出来ないという事だ。
しかし、そうなると何故主人公のテザートだけがその"呪縛"から解放され、地上に出る機会を得る事が出来たのだろうか。
そして、その発端となる出来事はなんだったのか。
この、"行動がシンクロする"という設定を作ってしまったが故に、根本的な部分から辻褄が合わなくなっていたし、辻褄を合わせる為に必要となる説明も最後までなにも無いから、その矛盾を起点に様々な事柄が連鎖的に不明瞭となり、瓦解してしまっていた。
確かに、ノリやテンポは面白いところもあるし、黒人という特色を活かした黒に紛れる(溶け込む)演出も見た事がありそうでないような新鮮味は感じられた。
しかし、散りばめられた謎やメッセージの数々を仕込む前に、今作に関してはもっと伏線回収に力を入れるべきであり、そこが上手くない限りは監督の代名詞となりつつある"サプライズ"の5文字に、個人的には良い印象は抱けないかもしれない。