Tラモーン

ロード・オブ・カオスのTラモーンのレビュー・感想・評価

ロード・オブ・カオス(2018年製作の映画)
3.8
ブラックメタルの始祖・MAYHEM来日記念!ということで。


ノルウェーはオスロに住む青年オイスタイン(ロリー・カルキン)はユーロニモスと名乗り、友人であるネクロブッチャー、マンハイムとバンド「メイヘム」を結成し、飲んだくれてはガレージで演奏し、メタルを聴く日々を過ごしていた。ある日ドラムのマンハイムが脱退し、代わりに凄腕ドラマーのヘルハマー(アンソニー・デ・ラ・トーレ)が加入する。さらにボーカル募集にデモテープを送ってきたデッド(ジャック・キルマー)に衝撃を受け、彼を迎え入れる。勢いに乗ったバンドは悪魔崇拝を掲げるブラックメタルを標榜し独自の音楽性を築き上げ、地元で人気を博していく。


ユーロニモス視点のメイヘム史であり、ブラックメタル黎明期の混沌を描いた作品。
ブラックメタル自体は全然好きじゃなくて(メタルはある程度好きだけど)、でもメイヘムとインナーサークルにまつわるヤバい歴史はロック史においてかなりショッキングなのでwikiなんかで読んでいて、もちろん知っていた。

思想も行くとこ行くと本当もう…って思ってたけど、この作品を観る限りではみんなちゃんと人間味があって、自分なりに一生懸命な若者だったんだなという感じ。凄惨な結末に対して、映画としての印象は青春モノを観終わったときの感覚に近い。

冒頭の地元の悪ガキたちキャッキャからのデッド加入、そして小さなライブハウスでの演奏シーンは本当にキッズが成り上がっていくという感じでワクワクした。コープスペイントを施したデッドとユーロニモスのライブシーンがカッコイイ。そして意外にも、初期のヘルハマーがメタリカのラーズみたいなスラッシュメタルファッションなのはちょっと笑った。

そんな中にもショットガン自殺で有名なデッドは不穏な影がチラついていて、結末を知っているから見ていてハラハラする危なっかしさがある。ユーロニモスは過去のトラウマに苦しむ彼を見ていられなかったからあんな言葉をかけたんだろうか。

しかしハッタリ屋で野心家のユーロニモスはデッドの死を利用してメイヘムのイメージアップ(ダウンか?)に成功。自身のレコードショップとレーベルを立ち上げ、ここからブラックメタルとインナーサークルの快進撃と同時に凋落が始まる。

"俺は帝国を築いた。誰にも止められない"

そこへ元々メイヘム信者だったヴァーグが仲間入りしたことで暴走し始めるメンバー達。

メイヘムのライブに感銘を受けたばかりのころのヴァーグと名乗る前の青年クリスチャンはただのメタルファンだった。スコーピオンズのパッチを付けたGジャンをバカにされ、ポーザーと罵られた彼はただユーロニモスに認められたかっただけなのかも知れない。しかし彼の中だけで膨れ上がったメイヘムとブラックメタルへの妄信はユーロニモスへの畏敬の念を大きく上回り彼を凶行へと駆り立てる。彼が教会へ放火したことをきっかけにインナーサークル内では"誰が1番邪悪か"を競い合い始め、ノルウェー各地で教会の放火が相次いだ。
歯止めが効かなくなり、ついには殺人事件まで起きてしまう始末。

"ただの願望が現実になった。でももう抜け出せない"

ユーロニモスの作り上げたブラックメタルは一人歩きを続け、肥大化し、ついには彼自身を脅かすものとなってしまった。こんなはずではと思いながらも、引くに引けない彼のプライドとハッタリ屋な性格故に、困惑しつつも自分の首を絞め続けてしまうユーロニモス。

暴走を続けるヴァーグも、犯行公表の際には自身の脆弱で都合の良い悪魔信仰を指摘され記者に言い返すことができない一幕も。

思えば2人とも元は純粋に音楽で認められたかったはずなのに、センセーショナルな虚構に飲み込まれ、自分を見失い、引き返せなくなってしまっただけのような気もする。

"ポーザーめ"

見せかけだけの偽物だと思われたくないがための虚栄心は若さ故だったんじゃないだろうか。

終盤に明かされるデッドの自殺現場での真実。本当はデッドの死を1番に悲しみ責任を感じていたのは他ならぬユーロニモスだったんだろう。もしかしたらデッドのためにメイヘムを成功させたかったのかもしれないな。

"俺はメイヘムを立ち上げたがお前は何を成し遂げた?"


エピソードは強烈だけど、結局はバンドにありがちな成功と自信のイメージの乖離に起因するものだったのかな〜って印象。ビートルズもオペレーション・アイヴィーもハイスタもみんな人気に押し潰されたんだもんな。


それにしてもデッドの自殺シーンとラストシーンの滅多刺しは結果を知ってても映像で観ると強烈でしたね…。
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