亘

ボーダー 二つの世界の亘のネタバレレビュー・内容・結末

ボーダー 二つの世界(2018年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

【「あちら」と「こちら」】
税関職員ティナは、人の羞恥を嗅ぎ分ける犯罪摘発のスペシャリスト。しかし顔が醜く心無い言葉を浴びせられることもあった。ある日税関で怪しい男を見るが、彼は何も持っていなかった。この出会いがティナの人生を大きく変える。

ボーダー(境界線)は、世界を区切るもの。左/右のような便宜的な区別もあるけれど、時には意図的な分類や分けることによる思わぬ結果もある。人の分類でいえば、分けることで「こちら」では連帯意識が生まれ絆が生まれる一方、「あちら」のものは異物や他社として排除される。今作はそんなボーダーの意味について考えさせられる作品。

[変わり者ティナ]
以前からティナは自分が他人と違うことを認識していた。人の羞恥を嗅ぎ分け、税関の前を通るだけで薬物やポルノ動画まで摘発。同僚もその能力を理解しきれていないものの全幅の信頼を寄せていた。ただ顔は醜く知らない人から引かれることがある。町から離れた山小屋でボーイフレンドと住むが、ボーイフレンドには性欲がわかない。彼女は自分が人とは違うとは感じながらも、あくまで[人間]の中で自分が変なだけだと感じていたのだ。

[ヴォーレとの出会い]
彼女の人生はヴォーレとの出会いで変わる。ある日彼女は税関でヴォーレに目をつける。しかし怪しんで荷物を確認しても何も出てこない。醜い顔の彼はじめっとした笑顔で去っていく。その数日後には彼女は気につく幼虫を食べるヴォーレと会う。はじめは怪訝そうに彼を見ていたティナだったが、いつしか息が合いヴォーレに家の離れを貸すことになる。ティナのボーイフレンドからすれば怪しい男が来たという印象だが彼女は気にしない。一方でヴォーレは夜に怪しい動きを見せ始める。

[ボーダーを引く]
ティナのボーイフレンドが数日家を空けると、ティナとヴォーレの距離感は急速に縮まる。2人は森の中で語り合い、セックスをする。ここは特に衝撃が大きいシーン。ティナが人間ではないことがビジュアルから見せつけられるのだ。そしてヴォーレによってティナは自分がトロールだと知る。このシーンで彼女と人間との間にはボーダーが明確に引かれたのだ。これでティナはショックを受けるかと思いきや、彼女は生き生きし始める。ボーダーによって「違うもの」と区別されることでモヤモヤが解消されたのだ。「他人と違うことは優れていること」というヴォーレの言葉も彼女の後押しになったと思う。ボーダーを引くことの良い効果を描いたパート。

[ボーダー越しの対立]
「トロール」としてヴォーレとの絆を深めたティナは、ついにボーイフレンドを追い出してしまう。これで2人で暮らしていけるかと思いきや問題が起こる。ヴォーレが隣家の赤ちゃんとすぐに死ぬ無精児をすり替えたのだ。ヴォーレは「トロールとしての」規範に従い人間を絶滅させかつての良き時代を取り戻そうとしている。その背景には、かつて人間がトロールを迫害し数が減少した過去があったのだ。ヴォーレの行為は、[人間の規範]でいえば犯罪。ただ[トロールの規範]からすれば擁護するべきなのか。さらには彼女自身、人間の両親によってトロールの夫婦から譲られたことが分かる。その際にはトロールとしての名前を破棄されていたのだ。ついには2人は離ればなれになってしまうが彼女のもとにヴォーレとの間の赤ちゃんが届く。その子にコオロギを食べさせるティナの姿からはトロールであることへの誇りが感じられた。

人間とトロールという非現実的な組み合わせではあるが、この間のボーダーが生む問題は、まさに人種・宗教・国境の問題を映し出している。「ぼくのエリ」のような美しいシーンはないけど、それも含めて現実世界を反映した作品。


印象に残ったシーン:
ティナとヴォーレが森の中で触れ合うシーン。

印象に残ったセリフ:
「他人と違うことは優れていること」
亘