このレビューはネタバレを含みます
蟻とキリギリスの童話のアニメ化。にしては、この描写力の完成度の高さよ。単なる描画的なものだけでなく、そのキャラクターたちの形態を見事捉えたアニメーション力がすごい。ちょっと内容が説教くさくてそれだけが残念な気もするも、文部省映画だから仕方ないだろう。
擬人化。今作のキャラクターは元の生き物に忠実であり、擬人化されているが人の形にされているわけではない。「鳥獣戯画」ぽくて、古き日本絵画の系譜を取り入れたという文部省製作らしさが窺える。人によっては元の生き物に近すぎてキモいと思う人がいるかもしれない。それぐらいリアル。逆に可愛くもあるけれど。セミが読書してたりトンボが団扇持ってたりすると。生き物の本質がほぼ変わらないわけで、ちょっと彼らの生き方に感情移入しやすくなり、なるほど生き物を大切にしようと思える立派な教育アニメである。
季節表現の巧みさ。夏のカラッとした空気を白と黒というたった2つの階調と薄い灰色だけで表現できる描写力。またそれを持って秋のような寒々しさ、薄暗さもしっかり表現している。それだけでなく、ワンカットのうちにみるみる夜になるカットは美しいのとアニメとは思えぬ表現力で情緒あるシーンになっている。しかも夜になるとちゃんと星も出て月も昇る。これは別にセル画で無数のコマを使っているのではないのだ。実に日本の風土を表すに特化していて素晴らしい。
蟻とキリギリス。蟻は古来の日本の庶民的な生き方。キリギリスは西洋的な生活をする生き方。蟻とキリギリスという抽象度高い話だから良かったものの、こうも生活様式でわけてしまうとあてつけっぽくて鼻についてしまう。庶民に蟻であってほしいという国の願望が薄っすら見え透いているわけで。そんな中、酒の飲み過ぎで中風になったガマじいさんが一番悲惨だったりする。ただ、庶民の感情、富裕層への苛立ち、自業自得に冷たい、などなどさほど今と変わらない負の感情が窺えて、なんだよこの頃から変わってないのかよ…とちょっとよくない気分になった。