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ストップ・メイキング・センス 4KレストアのTnTのレビュー・感想・評価

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 あんたこれ爪先から頭までビートで埋め尽くしじゃない!

 逆宗教。宗教は神に基づき世の中が論理づけされて、目指す高みも決まっているが、今作は「意味づけ」を拒否した果てに、何かを標榜するでもなく一心同体に熱狂することができる。このライブでは「天国」はなんてことも起きない「バー」でしかない。彼らに多分に影響を受けたじゃがたらのボーカル江戸アケミもまた「宗教でなく、リズムによって救われる」と説いていたが、そういうことだと思う。

 「Psycho Killer」という非常に内的な痙攣から始まったトーキング・ヘッズ史は、ここまで皆を巻き込む渦となった。まさに「Once In A Lifetime」のような、今の自分がここにいる不思議を、彼らは感じていたのではないだろうか。そしてこの曲に出会うたびに私は以前の自分の過去なんか振り返って、あぁ遠くに来たしでもまた同じ音楽を聴いてるなぁと思いに浸ったり。

 デヴィッド・バーンが、メンバーやコーラス隊が、前後左右に揺れるそのリズムに合わさずにはいられないもどかしさ(すいてたので一眼憚らずに全然揺れたけど)。よくこのショット逃さなかったな!と思えるのと、不意にくる別カットの意表を突く感じなども抜かりない。かつて演技でも演奏でもステージという限られた場がこれほど運動に満ちていたことがあったかね?!ないね!

 この映像自体は4日を纏めたもので内容はかなり凝縮されている。それによるデヴィッド・バーンの七変化ぶりを堪能できる。てか最初の「Psycho Killer」での演奏する姿カッコ良すぎないか?その後悪魔っぽい歌をオールバックできめたり、暗闇で口元が絶叫するように開かれたり、しがないサラリーマン風メガネかけたり、そしてあのビッグスーツという素っ頓狂さ!曲もそうだが、このままの自分でいる不安、つまりモラトリアムと、家という安心を求めたいという相反する感情で揺れ動いてるなぁと。これはすごい庶民的で普遍的な葛藤なんですよ、だからとても共感する(共振する)。

 長いこと彼らは仲違いから解散し、再会もなかった。しかし、今この4Kのこともあって、そして時が経って彼らがまた4人で集まってインタビューなど受けているそうだ。この映画に感じてた「楽しそうなのに解散したんだよなぁ…」という後味もまた変わって、彼らの存分にリズムと仲間に身を任せる軽快さを快く見れた。

 ラストで映し出される観客らのそれぞれ自分の踊りをしている幸福を目撃できてよかった。自分マジでトーキング・ヘッズファンで良かった。好きなバンドがこれだけのライブ映像残してくれてるありがたさよ。

P.S.
 ティナ・ウェイマス、メンバー紹介で一番歓声デカいの愛おしい。
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