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アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場のmaverickのレビュー・感想・評価

4.2
2017年のフィンランド映画。第二次世界大戦中の1941年から44年にかけて、フィンランドとソ連の間で戦われた継続戦争を描いている。母国フィンランドでは史上最も動員された映画となった。


フィンランドでは“知らない人はいないヴァイニョ・リンナの古典小説「無名戦士」を原作とし、映画化されるのはこれが3度目とのこと。自分は継続戦争のことすら知らなかった。日本が太平洋戦争を行っていた時に、北の大地でも同じように凄惨な戦いが行われていた。

フィンランドは占領された国土を奪還するために、ドイツと手を組んでソ連に戦いを挑む。主要人物の一人であるロッカの職業は農業で、自分の土地を取り戻すために戦っている。兵士らの戦う意味はそれぞれだが、ほとんどが国土を守るためであり、侵略戦争とは違う。だがどんな理由であろうとも、戦場の残酷さは同じだ。敵も味方も同じ人間。愛する家族がいて、それぞれに人生がある。その虚しさを痛烈に感じさせる内容だ。

エキストラは1万4000人超。フィンランド国防軍が全面協力して作り上げた戦場の描写が凄まじい。1テイクに使用した爆薬の量がギネス世界記録に認定されてもいる。戦いは歩兵戦であるため、その描写も限りなくリアル。CGを多用した戦争アクションとは感じ方も違う。耳元で銃弾が掠める音などにはぞっとする。戦車も登場するが、あれは残存する個体を流用しているのではないだろうか。戦車対歩兵の戦いもリアリティに満ちていた。塹壕内に突撃しての戦闘や、闇夜に紛れての狙撃など、歩兵戦中心でもバリエーションが多彩である。川を渡る際に銃撃に合う場面の描写などにも見せ方の上手さが表れている。戦争アクションとしては一級品の出来栄え。ハリウッドにも引けを取らない。

名もなき兵士たちの群像劇。一人一人にドラマがあるが、その描き方に深みがほしかった。キャラクターは個性的だが、自分はあまり入り込めなかったので。ドラマ部分の描き方が優れているとは感じれなかったな。

作中でフィンランドの兵士らが敵を馬鹿にして、ソ連の歌を歌うシーンがある。気持ちの良いものではないが、これは監督が意図して差し込んだと推測出来る。戦争では相手の人権を踏みにじるようなことを平然とやってしまうが、それを見て「良くないこと」と感じる感覚が大切だ。良くないことでも平然とやれてしまうように人を変えるのが戦争。戦争とはそういう恐ろしいものなのだ。


フィンランドの戦争の歴史を知れたことが貴重だった。本作はディレクターズカット版の180分版があるらしい。それを観れば、ドラマ部分にも深みが得られるかも。完全版も観てみたい。
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