ウサミ

フォードvsフェラーリのウサミのレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
3.8
彼らがなぜ美しいか?
資本主義に傾倒したフォードと、車の速さをただ追求するフェラーリ。

フェラーリから言わせれば、彼らの車は“醜い”。

予告やポスターを一見すると、「フェラーリ社」を敵に据えた、「フォード社」のドラマのように見える。

しかし、実際は、追求者、探求者、道を極めようとする者たちの美学、そこにある、彼らにしか見えない景色、その世界で生きる男たちの物語なのである。

それはフォードvsフェラーリなどではなく、美を追い求める者が“醜い”ものたちに立ち向かうドラマ。

「一つのミスで死ぬ」

頭がおかしくなるほどの疲労と死の匂いを常に漂わせながら、狂気の世界に没頭する彼ら。その頂点では、悟りにも近いような感情を抱かされた。

それだけの映像。無駄のない音響。そして真に迫る演技。
たしかに素晴らしかった。

しかし、その美しい者たちをもっともっと徹底的に描かれる必要があるのでは?と個人的に感じた。

無骨な男たちの絆、死を覚悟した親父の背中、彼らだけが見える風景、などなど…
はるか雲の上の世界を見上げるような熱いドラマを感じたかった。クールな映画、といえばそうなんだけど、それ以上に背筋が震えるような感情の高ぶりを得たかった。
史実に基づいていて、現実はドラマチックとは限らないし、悪いとは思わないけれど、彼らの視界、感情、覚悟が見えてこない。

好みだと思うけど、なんならレースシーンがなくても良いくらい。それくらい追求者たちの狂気を徹底的に描いて欲しかった。
それは言い過ぎか。

粗を探しながら映画を観たって楽しくないし、もっと良いとこを探しながら観た方が作品の素晴らしさを感じれるはず。
なんだけれども、映像、音響だけでは、僕はこの映画に感情を乗せきれなくて、その理由を探しているうちに映画が終わっていった感じでした。

しかし、ドラマ性を削ぎ落とした姿こそ、「美の追求の形」として映画が答えをつけているのかも。
単に僕の好みでは無かっただけなのかな。
しかし楽しめました。
この迫力は絶対映画館で味わってください。
ウサミ

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