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フォードvsフェラーリのohassyのレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
3.5
車にほとんど興味が無く、出来るだけ運転は避けたいと思っている僕には、レースに賭ける人の心情は計りかねるけれど、何かを達成するために純粋に突き詰める行為には素直に感動するし、達成すること以外のこと(例えば危険とか)に無関心になる人には憧れもあるし、敵味方関係なく高次元でわかり合う人たちの関係性はもっと憧れる。
そういう意味で「RUSH プライドと友情」も、抜群に面白い映画であった。

本作はタイトルの通り、レース初心者のフォードが絶対王者フェラーリに挑むジャイアントキリングの物語ではあるけれど、後半に進むほど、主人公たちが本来味方であるはずの組織の都合と戦いながら勝利を目指す物語になっていく。
元々の目標は同じはずなのに、それぞれの立場により目的がずれることによる摩擦や生まれてくる障害は、実際仕事をしている中でもよく鉢合わせする。
クライアントや発注先との関係はもちろん、会社(チーム)内でも起こりうる。
例えば本作では分かりやすく悪役だった副社長の目的は、勝利した時自分がいかに存在感を出せているか、社長にアピール出来ているか、に目的が擦り変わることで目的がずれるのだけれど、そういうズレが言い争いになってしまったり、反目し合うことにつながったりする。

だいたいそういうのは些細な部分でやり合っているあることが多いので、そんな時は原点に立ち返って話し合うことが大事だ。
そもそもの目的ってなんだっけ?と。
巨大な権力に面と向かってはっきりとそれを伝えられるシェルビーは、プロのビジネスマンとして見習うべき部分は多い。
社長だって勝つことが唯一の目的だし、副社長だって存在感を発揮するにも勝利しなくては意味がないのだ。

本作はともかく主演2人のキャラクターがヒーローとして魅力的に描かれているけれど、描写はちょうどよく抑え気味で、観ていてすごく気持ちがいい。
隅から隅まで立派な人間というわけでもなく、思いやりに欠ける人あたりの悪さを欠点とも思わない、クリスチャン・ベイル扮するマイルズに、隣のフェラーリブースにちょっかいを出す、マット・デイモン扮するシェルビー(シェルビーに関しては結構悪いことしてるよなあ笑)。
2人のおじさんがじゃれ合いながらも目的を一つにする姿を、人間味あふれる演出と演技で描き出す。
ずっと見ていられるやつだ。

フォード上層部(主に副社長)とチームの間で立ち回る、シェルビーをスカウトしチームを作りのちにフォードの社長も務めるアイアコッカが、作品の中でとても重要なバイプレイとして存在する。
彼を通すことで会社と現場という関係性が明確になり、観るべき視点をしっかりと作られてるのだけれど、演じるジョン・バーンサルがまた良い演技をしている。
それらをまとめるジェームズ・マンゴールド監督は個人的に「コップランド」「17歳のカルテ」あたりではすごく評価が高かったのだけれど、「ウルヴァリン;SAMURAI」で全く信用できなくなってしまい、「LOGAN/ローガン」であっという間に戻ってきた。
本作も踏まえると、年齢をある程度重ねた男のドラマを撮らせることで痺れるような作品に仕上げてもらえるという印象だ。
ウルヴァリンみたいなのは、誰か他の人に任せておけばいい。

大きな見所の美術やレースは、極力CG処理を抑えたというセットと撮影が見事に60年代感を作り上げていて、自然に時代を飛び越える。
訓練を重ねた熟練のダンサーたちが一糸乱れぬパフォーマンスを披露するかのように、熟練のスタントによる実物性が本物のスピード感と迫力を生み出す。

マイルズの家族もとても魅力的に描かれていたけれど、あの奥さんは惚れてまうね。
カトリーナ・バルフという女優さんらしいけれど、今まで全く認識したことがなかった。
よかったです。
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