ジャン黒糖

フォードvsフェラーリのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
4.3
ベルトコンベアを利用した高効率・大量生産可能な自動車製造によって20世紀の資本主義・アメリカ社会を代表する超巨大企業へと、一代で築き上げたフォード・モーターは1960年代、次代に向けたブランドイメージ刷新に悩んでいた。
そんな同社は当時、フランスで行われる24時間レース"ル・マン"の覇者でありながら経営難に陥っていた欧州の世界的ブランド、フェラーリの買収を試みるが、条件が合わず破談、それどころか初代フォード社長に比べ魅力のなくなった現体制について先方社長にコケにされる始末。
これに激怒した2代目フォード社長はいままで賞レースのイメージがなかった自社に(巨大企業たる多額の金にもの言わせて)優秀なエンジニア、ドライバなど英知を結集させ、フェラーリをル・マンで負かすことを決意する…。
という実話をベースに、『3時10分、決断のとき』『LOGAN/ローガン』などのジェームズ・マンゴールドが監督、マット・デイモン、クリスチャン・ベールの2人がダブル主演を務める。

結論から先に言ってしまうと、んー!傑作!
全ての働く人必見!

マット・デイモン演じるキャロル・シェルビーは、レースの優勝をフォード社長はじめ重役から請け負わされつつ、クリスチャン・ベール演じる破天荒ながら天才的なエンジニア兼ドライバー、ケン・マイルズをサポートする、板挟み的なポジション。
一方のケン・マイルズは自分自身の才能を疑わず、おかしいと思ったことに対しては誰彼構わずはっきりと物言い行動するため周囲との衝突が絶えない。
目標こそ同じ、"ル・マン"の優勝だが、立場・性格が異なる2人の姿は、たとえば前者は企業の中間管理職、後者は企業からの仕事を請け負う個人事業主、というふうに置き換えてみると非常に私自身、働くサラリーマンとして共感する部分が非常に多い。

キャロル・シェルビーが映画前半、フォードの人気車マスタングのイベントステージで「人生において自分のやるべきことがわかってそれを仕事にできる人間は本当に幸運だが、それができる人は少ない」と語るスピーチは、映画が好きと日頃から言いながら別に最初から興味があった訳でもない業界で就職・転職してそれなりにやりがいを感じながら働く自分自身としては、なんとも居心地の悪い、だけどだからこそすごく共感のする重いメッセージに心掴まれた。

他にも映画中盤、レース失敗・苦労の連続で打倒フェラーリに向けいよいよ人材削減の要否を社長から直接問われる場面で語るシェルビーの言葉は、それでもチームを諦めない力強い想いを感じ、非常に気持ちが良い。
だいぶ意訳するが「たしかに今回のレースは大失敗だった。ただ、あのレースで確実にフェラーリの連中は気付いた。あの直線コースで我々が記録した最高速度を彼らは出せない、次のル・マンでは間違いなく脅威になる、と。」

企業・組織が大きければ大きいほど、意思決定に対し慎重になり、その判断材料は多ければ多いほど下しやすくなる。
偉大な先代と比べられてしまう2代目社長の立場、板挟みなシェルビーの立場だとその決断を下すことが難しいことは、私自身サラリーマンの身としてとてもよくわかるが、わずかな成功体験に勝利の可能性を賭けるその姿はとにかく格好良い。

また、破天荒な天才ドライバー、ケン・マイルズについて、レース終盤で描かれるとある姿は、いわゆる少年漫画とかでたまに出る「試合には負けたが、勝負には勝った」とは逆のようなことが起きる。
彼個人としてのレースの勝ち負けではなく、チームとして、組織としての行動を優先した彼の姿は、映画序盤で描かれる破天荒さを知っていればこそ、こみ上げてくるものがある胸アツなシーンだった。

この2人によって打ち立てた記録、栄光は期間としてはわずかかもしれないが、この挑戦をきっかけにフェラーリは多額のコストがかかるル・マンから1967年に撤退、F1へと集中していくことになったという。

「金にもの言わせた結果、フォードはル・マンで優勝した」と端的な結論だけいうととても聞こえが悪いが、その優勝に向け、ひたすら勝利に賭けたチームひとりひとりの情熱があったからこそ達成できたのかなと思ったし、そのプロセスをエネルギッシュに描いた本作は月並みな表現で恐縮だけど本当に素晴らしい。


正直ジェームズ・マンゴールド監督って『3時10分、決断のとき』『LOGAN/ローガン』こそめちゃくちゃ良かったけど、『ウルヴァリン:SAMURAI』の1件があったから自分のなかでは毎作「今度は大丈夫か?」と不安になりながら観がちだったけれど(大変失礼!)、本作は彼の監督過去作のなかでも自分は一番好きな作品になったと思う。
主演2人も、一時はトム・クルーズ&ブラッド・ピット起用されていたらしいが、むしろその2人だとスター性が際立ってノイズになってたろうことを考えるとこの2人で本当によかった!

あー!惜しむらくは映画館の大画面・大音量でレースの迫力を味わい、浴びたかった!!!オススメです!
ジャン黒糖

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