天才的なジャズピアニスト、ビル・エヴァンスの生涯を描いたドキュメンタリー。
生前の本人へのインタビューはもちろんだが、主に彼と共演した、もしくは深く関わりのあった人々の証言を元に、ビル・エヴァンスという人間を掘り下げていく。
当然知らなかった事実も多々あるものの、総じてビル・エヴァンス入門のような印象を受けた。
薬物という魔物と闘いながらも、彼は美しい音楽を奏で続けてきた。彼の生涯から音楽を取り上げると、それはそれはひどく虚しいものであろう。しかし彼は音楽家であり、歴史に名を残す素晴らしい音楽を生み出し続けたその事実は変わらない。むしろ薬物により彼の演奏は深化していった側面は否定できないのではないだろうか。
近年話題になった言葉であるが、やはり生み出された音楽それ自体には罪はないと考えるべきではないか。ジャズと薬物は切り離せないような時代がかつてあり、それを歴史として客観視する我々の感覚が麻痺してしまっていることも影響してはいるかもしれないが、法により裁かれるべき悪事とは別に、文化は存在するのである。
決して薬物を肯定するわけではないが、音楽は人類の進歩の軌跡の一つであり、その歩みが止まらないことを願うばかりである。
