メル

赤い闇 スターリンの冷たい大地でのメルのレビュー・感想・評価

3.9
先日ロシアのナワリヌイ氏の獄中死が発表された。遺体は14日間過ぎないと遺族の元には戻らないようだ。その間政府は遺体に何をするのだろうか? ロシア政府が発表した突然死という死因をどれだけの人々が信じるのだろうか…等と色々思った。

こちらは1933年の話。
イギリスのジャーナリスト、ガレス・ジョーンズが当時ソビエトが繁栄を続けているというニュースの実態を探るべくモスクワ入りした時の実話に基づいた作品。

世界恐慌でどの国も大変な時になぜソビエトだけが?スターリンの資金源は何なんだ?

そこで彼が見たものはスターリン政権に迎合して事実を書かないニューヨークタイムズの支局長、外国メディアの行動を監視する為にソビエト政府から付けられた監視人、ソビエト南部のウクライナでの飢餓、雪の中に倒れた多数の死者、その事実を書こうとして殺されてしまった同僚記者。

命からがら帰国はしたがジョーンズの記事は周囲から無視され、一時は新聞王のウィリアム・R・ハーストによって取り上げられるもその2年後、30歳を目前にしてソ連の秘密警察に…。

事実の隠蔽、その為にマスコミの忖度はどの国にも幾らかはあるのだろう。
しかし、不都合な真実を隠す為に殺人、反政府分子の処刑となると話は別。
スターリンの粛正で命を落とした人数は84万人だという。(ソ連発表)

ウクライナ侵攻やナワリヌイ氏への毒物投与からの獄中突然死…スターリンの頃の体質が現代まで綿々と続いている様に見える。

最初と最後にジョージ・オーウェルが「動物農園」を執筆する場面が出てくる。
マナー牧場では指導者の豚が独裁者となり恐怖政治へと変貌していく様を描いて、それをソ連の全体主義と重ねて語られる場面がいかにもイギリスらしい。

N.Y.タイムズの女性記者は「ナポレオン」でジョセフィーヌを好演したヴァネッサ・カービー、いけ好かない支局長にははまり役のピーター・サースガード、主役のジェームズ・ノートンも生真面目な若きジャーナリストにピッタリ。
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