LalaーMukuーMerry

フリーソロのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

フリーソロ(2018年製作の映画)
4.3
フリースタイル・フィギアスケートの個人演技という意味ではありません(笑)。
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このフリーはデューティー・フリーのフリーで「なし」の意味。何がないかというとロープ。つまりロープなしで一人でやるロック・クライミング。
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主人公はアメリカの青年、アレックス・オノルド。フリーソロに取りつかれた彼が、カリフォルニア、ヨセミテの巨大な岩壁「エル・キャピタン」(高低差975m)に挑んだドキュメンタリー。危険な事この上なし。オリンピックのフリースタイル・クライミングのメダルクラスの超人的選手でもこんなことは絶対にしないだろう。
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「美は細部に宿る」というが、危険(逆に言えば安全)も細部に宿る、そして感動も細部に宿る。遠くから見たところツルツルのような岸壁にも、亀裂が無数にあって、大きなものでは人がすっぽり入るものから掌がちょうど入るくらいのもの、指がやっとひっかけられる程度のものまでさまざま。そして表面には細かな凸凹が無数にあって、ミリレベルの突起なら靴がひっかけられる(なんで滑り落ちないのか不思議)。その細部を観察しルートを見極めてとりつくのだ。
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決して無謀なチャレンジをするのではない。ポイントとなる場所(大抵名前がついている)ではロープを使って何度もクリアできる登り方を練習する。そうやってすべての危険ポイントを100%攻略する自信がついたとしても、安心が生まれることは決してない。一つのミスも許されないのだから。
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終盤のクライミング・シーンは、息をのんで見入ってました。
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撮影クルーも仲間のロック・クライマー。そうでなければこんな映像は決して撮れない(大抵の人は足がすくむでしょう)。チャレンジャーの気が散らないように細心の注意を払いながら、なるべく近くでの撮影。これを撮っているクルー達の心のうちもドキュメンタリーの大切な要素だ。成功するかどうか誰にもわからないのだから・・・
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死と隣り合わせの冒険に向かう男の孤独。死んでしまった一流のクライマー仲間の写真や映像もたくさん出る。普段は饒舌な彼が、そのチャレンジについては人と話をしなくなる。感情に鎧が必要なのだ。いつ決行するのか誰にも言わない。周囲もそれを理解している・・・
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この作品がいい感じになったのは、彼の恋人のおかげですね。応援する気持ちと、心配と不安の感情、その間で揺れる気持ちを素直に表現する彼女がとても素敵でした。
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私は山登りは好きで、岩場の多い山にも登ることはあるが、ロック・クライミングだけはする気にならない。この映画は良かったけれど、やっぱりしないよ(てか、とてもできね~)。