ひろぽん

ラストナイト・イン・ソーホーのひろぽんのレビュー・感想・評価

3.7
田舎町に住むエロイーズは、ファッションデザイナーを目指し、ロンドンのソーホーにあるデザイン学校に入学する。しかし、同級生たちとの寮生活に馴染めず、街の片隅で一人暮らしを始めることに。新居のアパートで眠りにつくと、夢の中で60年代のソーホーにいた。そこで歌手を夢見る魅惑的なサンディに出会うと、身体も感覚も彼女とシンクロしていく。夢の中の体験が現実にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズは、タイムリープを繰り返すようになる。だがある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。さらに現実では謎の亡霊が現れ、徐々に精神を蝕まれるエロイーズ。果たして、殺人鬼は一体誰なのか、そして亡霊たちの目的とはという物語。


現代と1960年代のロンドンを舞台に、夢と現実の世界が交錯する煌びやかな世界が描かれる。

ファッションデザイナーを目指す田舎町で生まれ育ったエロイーズの自作した洋服の数々は独自性がありとてもオシャレ。彼女の美貌な容姿だけでなく身につけている洋服にも目がいくデザインが素敵。

『ティファニーで朝食を』のポスターが貼られている実家の部屋の内装もキュート。

白いBeatsのヘッドフォンで60年代の音楽を聴きながら列車で胸を踊らせ憧れのロンドンに上京するも、意地悪なルームメイトと馴染めず孤立していくエロイーズ。

学校の寮生活に馴染めず一人暮らしを始めたところから物語が急速に進展していく。

夜になり眠りにつくと同じ部屋に住んでいたサンディという歌手を夢見る若き女性の過去を追体験していく。

エロイーズが夢の中で迷い込んだ60年代のロンドンで目にする『007/サンダーボール作戦』の大看板。

ネオンカラーに輝く煌びやかなソーホー地区の街並み、60'sの音楽やファッションと共に踊り狂うパブの人々、色気のある男に誘われながらヴェスパーを飲みながらダンスを楽しむワクワクする演出が観る人を釘付けにして没入していく。

夢の中ではエロイーズとサンディが同一人物の様に描かれるが、受け入れ難い状況に陥ると鏡を通して別々に描かれる演出がとても新鮮で印象的だった。

ダンスのシーンでもサンディとエロイーズが交互に入れ替わりながらの巧みなカメラワークに魅力された。

ネオンカラーの煌びやかな60年代のロンドンの街と対比するように、葬り去られてきた暗い闇の部分が描かれているため怖さがより際立つ。

白いタンクトップのゲス男たちの幻影がとても気持ち悪かった。自分の身から出た錆だな。

ミス・コリンズが部屋を貸す時に、「夏場は臭いがこもるから栓をしておく必要がある」とか、「下にあるフレンチ・レストランからガーリックの匂いが漂ってくる」とやけに匂いに関する話題を話していたのはカムフラージュするための伏線なのか。

何よりも黒人のジョンが良い奴だったけど可哀想だった。

元々霊感の強いエロイーズがさらに色んな幽霊を感じ取るようになり、現実の世界なのか幻想の世界なのか分からなくなってくる。

ラストのオチも衝撃的でビックリした。ホラー要素はそこまで強くないから苦手な人でも割と観やすい作品だと思う。

『007/サンダーボール作戦』の看板、『カジノ・ロワイヤル』でイアン・フレミングが考案したカクテルのヴェスパー、『女王陛下の007』に登場していたダイアナ・リグを登場させるなど、『007』要素が至る所に散りばめられており制作側の愛を感じる。

『ティファニーで朝食を』や『007』は権力を持つ男性に“囚われている”女性を描いている作品であり、過去の出来事を「ノスタルジー」という言葉で美化させないための男性の性的搾取の皮肉を描いているように感じた。

主演のトーマシン・マッケンジーとアニャ・テイラー=ジョイの2人の可愛さやセクシーさとオシャレな世界観や素敵な音楽が相まってとても素敵な作品だった。色んな要素が盛り込まれており飽きない。
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