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華麗なるギャツビーのろのレビュー・感想・評価

華麗なるギャツビー(1974年製作の映画)
5.0

「人の心はのぞかない主義だが、隣人のギャツビーは例外だ。私が軽蔑する象徴・ギャツビー。だが実際には、彼は航跡に浮かぶ塵の痛ましい犠牲者だった」

2週間おきに盛大なパーティーを開く。
マーケットをそっくりそのまま買い占めたのかと思うほど、食材をふんだんに使ったごちそう。
夏の夜に響くオーケストラ、男女の声はけばけばしく聴こえる。
賑やかなギャツビー邸のすぐ隣、月80ドルの小屋で過ごすニックはフライパンで焼いたステーキを食べながらその様子を眺めていた。
そんなある日、ニックのもとに招待状が届く。

ギャツビーは昔人を殺したらしいわよ。いいえ、私が聞いた話だと彼は戦時中スパイをやっていたんですって。
館の主ギャツビーは一向に姿を見せない。それだけに、庭に集う招待客の間では様々な噂が飛び交っている。
彼は一体どんな人物なのだろう。
好奇心が掻き立てられた矢先、ニックは執事に連れられて豪邸へと足を踏み入れる・・・。

白いバラの鏡の奥に、白いスーツのギャツビーが立っていた。
彼はニックを経て、かつての恋人デイジーと8年越しの再会を果たす。
テリーヌやクグロフに使われる真鍮の型を一つ一つ触りながら、ギャツビーの浅黒い手に重なるデイジーの細く白い指。
金で縁取られ、ブルーのギリシャ文字があしらわれた小さな池の水面。二人の額がぴったりくっつくと、朱色の金魚が一匹、また一匹と泳いでいく。
スクラップブックを彼女に関する記事で埋め尽くすほど愛していたギャツビーは、どうして自分を待っていてくれなかったのかと問う。
彼女はただ「だって金持ちの娘は貧しい人と結婚しないものよ。そうでしょ?」

メガネの広告は朽ちかけながら、厳しい眼差しを向ける。
デイジーの夫の愛人は、ガソリンスタンドを営む旦那を怒鳴りつけている。
女はこんなにも現実的で辛辣で、金や男らしさみたいなものを求めるものなのだろうか。
私もいつか結婚したら、「あんたは結婚式にも借り物の礼服だった」と夫をなじるようになってしまうのだろうか。

「あなたはいつも遠くにいるわね」とデイジーがギャツビーに手を伸ばす。
ギャツビーも「君にはなかなか近付けないんだよ」と同じように手を伸ばす。
けれど指先は触れない。あと数センチ届かない。
憧れは憧れのまま、どうにもならないのだ。
ガソリンスタンドの奥さんもギャツビーも、同じもどかしさを味わっていたのだろうか。そんなふうに考えていると、なんだかぐんと切なさがこみ上げてくる。

浜辺に打ち上げられてカモメが死んでいる。
ガソリンスタンドの主人は二つに分かれた道の、光が当たっていない暗闇の方を進んでいく。
二人の男が愛する女性のために死んでいったことを、彼女たちは知らない。
どれだけ愛しても伝わらない、永遠のすれ違いに胸が熱くなる。

「彼はデイジーの桟橋の灯に感激したことだろう。苦難のすえ、今にも夢を掴めると思ったに違いない。夢が去ったのも知らずに」

ギャツビーが望んだ緑色の光は遠く、今も点滅を続ける。


( ..)φ

窓を開けてもどっと汗が噴き出すほど暑い夏の午後、ホテルの一室で氷の入ったグラスを勧められても真っ赤な顔して断る。ギャツビーの死をデイジーに伝えないことで彼の愛を最後まで貫き通す。やっぱりニックが好きだ。

「女の子が生まれたと聞いたとき、バカな女に育てようと決めたの。女にはそれが一番」と話す世渡り上手な(したたかな)ミア・ファロー。
実は全く同じ言葉を祖母から聞いたことがあり、私の人生における伏線がまた一つ、突拍子もない形で回収されていきました。

絵コンテ誰が描いたんだろうと思っちゃうぐらい素晴らしいカメラワークと美術。ほんとため息が出ちゃうよね。
エンドロールまで抜かりなく残酷で、私の心をごっそりえぐっていく。

いつものように食卓で、お気に入りの場面をマシンガン描写していたのですが、私の好きが度を越したのか、途中からキューっと食道が細くなって思うように食べ進められなくなった。
食事が喉を通らないって、こういうことかと初めて思いました。

「黄金の夕暮れ。夏とともに私の人生が始まった」
ろ