ひでやん

ミッドサマーのひでやんのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

観客をバッドトリップさせるフェスティバルスリラー。

スローなテンポに少し飽きちゃって、そのくせ変な浄化作用を受けちゃって、評価が難しい。アリ・アスターが仕掛ける映像ドラッグは妙な中毒性があってヤバイね。登場人物が度々ドラッグを接種するが、観客はそれを目で接種する気持ち悪さ。花や植物、食卓の食べ物がごにょごにょと動いたり渦巻いたり、際立つ歪みではなく、なんとなく動いて見える演出が巧い。

車が村へ向かうシーンで、カメラがぐるりと回転して天地が逆さまになった時、常識が通用しない異世界へ突入。もう二度と元の世界に戻れないかも…そんな怖さを感じる反転だった。青空の下に広がる大自然、白装束の集団が踊って微笑む光景、そんな柔らかな雰囲気を時折切り裂く残酷描写。

とにかく明るい!すべての出来事が昼間に起きるのだ。見えづらい暗闇ではなく、青空の下でハッキリと見せる悪夢。共同体による命の循環は、時に近親相姦によって奇形の子を産ませる。招かれたゲストは外部の種となり、目撃者から共犯者へ、部外者から家族へと溶け込んでゆく狂気。「そこへ行かなきゃそうはならない」と他人事でそれを見ながら、ふと自分の生活を考えた。

学校や職場、家族や友人、様々な場所で何かしらのルールがあり、集団心理がある。自分以外の全員が「イエス」と言えば「ノー」と言えない空気感。普段の行動範囲が小さな世界となり、俯瞰で見るとそれは箱庭になる。ホルガ村に着いた途端、ドラッグを勧められたダニーが「着いたばかりなので落ち着きたい」と断るも、周りの空気を読んで皆とトリップするシーンがあるからこそ、集団に染まっていく彼女の心理が解った。

最初に人が死んだ時、逃げられないんだろうか?とか、妊娠が分かるまで外部は生かすべきじゃないか?とか、あれこれ考えていると物語はクライマックスへ。花に包まれたダニーと熊に包まれたクリスチャン、こうなるともう笑ってしまう。男に依存する女と、別れを言い出せない男のカップルが、カルト的儀式の中で描かれていたので楽しめた。
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