カリカリ亭ガリガリ

ミッドサマーのカリカリ亭ガリガリのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
5.0
文化人類学的に優れているし、カメラワークもキレッキレ(ベルイマンとパク・チャヌクの真似しすぎだぞアリ・アスター)だし、永遠と真っ昼間なせいで時間感覚がバグり始めてめちゃくちゃ悪夢的だし、終始明るいせいでグロいところも包み隠さずダイレクトにグロいし、前半のスローテンポながら不穏さビンビンな雰囲気は流石は『ヘレディタリー』を撮った人のことだけあるし、何よりも極めて個人的なトラウマや傷心に対して自己治療を試みるセラピー映画としては満点の出来、アリ・アスター先生お見事。

前評判で「死ぬほど怖い」「自殺を誘発しかねない」「精神的に殺しにかかってくる」などと散々に騒がれていたけれど、まあ確かにヤミヤミ鬱映画なのは理解できるけれど、ちょっとそれらの声が大袈裟であり煽りだなと感じるのは、だってめちゃくちゃ笑えるんですよ、この映画は。ほとんどコメディ的な展開。あまりにもとんでもねえことが起こり続けるし、地獄としてのビジュアルショックが一周回って爆笑を誘ってくるし、それら全て意図的な演出だと思われます。怖すぎて、地獄すぎて思わず笑っちゃうという感覚があり、だからこの映画は『ヘレディタリー』のような「世界を本当に呪った者だけが辿り着けるディメンション」とは異なる、すごく可愛らしさのある狂気。村人全員がニャハハと終始笑顔なのも、異常がそこら中を歩き回っていて、もはや笑うしかない。だから恐怖と笑いは紙一重。この辺の感覚は元ネタと思われる『ウィッカーマン』と類似しているし、怖いし笑えるという意味ではやはり元ネタだろうベルイマンの諸作品とも似ている。

アリ・アスターが『ヘレディタリー』を撮ったキッカケは(これはずっと伏せられてきたが最近になって明らかになったことで)、実弟が亡くなった時のトラウマによるものらしい。生き地獄の渦中で泣き続けるしかない彼には、当時の恋人がいた。恋人は彼の哀しみに初めは同情していたが、次第に面倒になり、ついに彼は捨てられてしまう……という経験が『ミッドサマー』製作のキッカケだと語るアリ・アスターは、まさしく、そんな自身の自己治療を本作でアクセル全開で試みる。自身の受けた傷を客観化して発散する。映画作家の生き様とはこうでなくてはならない。世界を呪い続ける孤高の映画作家アリ・アスターが紐解く地獄旅行は、紛れもなく精神分析的なセラピーであり、通過儀礼であり、生き返しだ。だからこそ、この映画のラストは永遠に闇が訪れない白夜のように、真に美しい。

救われなかったすべての人に、どうかこの映画が届きますように。
あなたが今いる場所が闇ならば、別の場所で光を見たくはないか?
そこが地獄だとしても。