開明獣

盗まれたカラヴァッジョの開明獣のレビュー・感想・評価

盗まれたカラヴァッジョ(2018年製作の映画)
5.0
「ローマに消えた男」、「修道士は沈黙する」などで知られた、イタリアの名匠、ロベルト・アンドのメタフィクション・ミステリーは、外連味たっぷりの上質なご馳走だった。

英題と邦題は、「盗まれたカラヴァッジョ」になってるが、伊語の原題は、「題名のない物語」。

シチリア産まれのアンド監督は、20世紀を代表するイタリア人作家、故イタロ・カルヴィーノ原作の「森の根の迷路」の人形舞台劇の監督としてデビューしている。カルヴィーノは私の大好きな作家の一人で殆どの著作は読んでるのだが、これだけはイタリア語版しかなく残念!!

その後、あの「ニュー・シネマ・パラダイス」の巨匠、ジュゼッペトルナトーレをプロデューサーに迎えてデビュー作を監督(日本未公開)。その後の冒頭の2作品で確たる名声を確立した。

いまだに未解決のカラヴァッジョの名画の盗難事件をテーマにしたミステリーだが、劇中劇を採り入れて、ポストモダンで不思議なズレをもたらす二重の入れ子構造で楽しませてくれる。

カラヴァッジョは16世紀のバロック絵画の巨人だが、光と影の画家と言われている。人は一面ではなく、光と影を持つのか、はたまた双子のように、二つの顔を持つのか・・・それは現実の中にいるのか、映画というフィクションの中にいるのか・・・。そして、結局、映画の中での現実も、私たちが見ているフィクションに過ぎないのかもしれない。

アンド監督はここで、マフィアが関与したとされる未解決事件にも焦点をあてながら、政治家すら信頼出来ない現代イタリア社会と、私達人間の虚い安い危うい日常を、混ぜこぜにした形で提示しているのもまた興味深いところだ。

虚々実々、私もあなたも一体誰なのか?
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