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劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さんのsanbonのレビュー・感想・評価

4.0
「他人より他人行儀な親子」のゲームで繋がる再生の物語。

この作品に一言言うとしたら「吉田鋼太郎ってやっぱりスゲえ」だ。

昇進目前に家族にも内緒で突然会社を辞め、日がな一日ボーっとしているだけのかつて仕事人間だった父。

コミュニケーションが失われていた親子の関係では、退職の理由も分からぬままであったが、ある日息子の「アキオ」が「退職祝い」と称し、自身の得意なオンラインゲーム「ファイナルファンタジー14」に正体を隠して父を誘う事を思い付き、その中で親交を深めつつ真相を探ろうと「光のお父さん計画」を実行に移す。

ゲームや漫画、アニメなどいわゆる「サブカル好きなオタク」というものは、基本的な一般層からはいたずらにキモがられてしまう対象だが、50過ぎでそういったものに熱中している姿を見ると、逆に微笑ましく感じてくるのはなんだか不思議である。

実際僕も、こうやって誰に頼まれるでもなく映画について語ったり、漫画も好きだったりするのは、はたから見ればやっぱりキモいのかな?いやいや、それだけでキモい筈がない!なんて、勝手に自問自答してしまうのだが、あの「坂口健太郎」ですらゲームに興じる姿は観ていて若干キモく感じてしまった為、やっぱり自分もキモいに違いないと確信した次第である。泣

さて、今作は実在するゲーム「ファイナルファンタジー14」が題材となっている為、劇中でもゲーム画面の映像が頻繁に使われているのだが、やはり映画的なCGとは根本的に違っており、PS4のゲーム画面といえど大型スクリーンで映し出されると結構な荒さが目立つ為、慣れるまでは正直ちょっとしんどい。

劇場には、明らかにゲームには興味が無いであろう、坂口健太郎目当てと思われる若いお姉ちゃんの姿もあり、終了後は無感情にもそそくさと足早に去っていったので、このゲームパートを受け入れられるかどうかが、この作品を楽しめるかの明暗を分ける最大のカギになるだろう。

これさえ乗り越えれば、不器用過ぎる父と息子が見せる彼らなりの最大限の愛情表現に、最後はボロッボロに泣いてしまう筈だ。

そして、やはり特筆すべきが、吉田鋼太郎の演技の幅の広さである。

厳格な父がゲームにハマっていく度に、徐々に綻んで行く様を見事に演じきっており、今作の前に地上波で放送されていたドラマ版(父親役は大杉漣)では泣けなかったのに、今回は内容を知っているうえでなおかつ泣かされてしまった。

また、ドラマ版には無かった要素もことのほか多かったが、そのどれもが邪魔になっておらずちゃんと一本の作品として綺麗に機能していたのも好印象。

新しい要素でもウルっとくる場面もあり、そこも良かった。

それと意外だったのが、今回鑑賞していた他のお客さんの年齢層が結構高めだった事。

それこそ、吉田鋼太郎世代のシニア層が多く鑑賞しており、ゲームに馴染みのないであろう方々が、ゲーム画面を観て手を叩いて笑っている姿は良い意味でカルチャーショックだったし、劇中でゲームに熱中する父の姿同様、それがどこか微笑ましい光景で、なんだかとてもほっこりとする空間だった。

もしかしたらこの作品がキッカケで、ゲームに興味を持つシニア世代が増えるかもしれないし、それが子供達とのコミュニケーションツールとして活躍する事例も多くなってくれるのではないかと胸が熱くなった。

そして、僕自身も子供の頃のように、お父さんとゲームや漫画の話題でもう一度盛り上がってみたいと思える、予想以上に素敵な作品に仕上がっていた。

笑える場面はしっかり笑いに昇華出来ており、泣ける展開もきちんと感動できる大変な良作であったので、映画としては中々のチャレンジングな作品で敷居は高いかもしれないが、一度試しに観てみても損は無いかと思う。
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