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僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジングのsanbonのレビュー・感想・評価

4.3
劇場版でやる意義を十分に感じられる大作。

今作は、累計発行部数2000万部超の人気マンガの劇場版第二弾であり、僕も原作コミックは最新刊まできっちり読んでいるのだが、ハッキリ言ってなにがそこまで人気なのかはイマイチよく分かっていない。

ファンの方は大変遺憾だと思うが、キャラクターのデザインも性格もあまり好きになれないし、展開もなんかいちいちたるいし、技名なんかは一つとして覚えられない。

そして、原作がそんな感じでハマってないもんだから、アニメ版と前作の劇場版は当然観ていないので、今作はその状態での鑑賞である事を前置きしておきたい。

結論からいうと、純粋にヤバかった。

原作マンガにはそんなにハマってないとか抜きにして、僕が知る「ヒロアカ」作品の中でも一番だし、一アニメとして観てもダントツで面白かった。

1-A全員での総力戦や、ライバル「爆豪」との共闘、仕舞いには「ワンフォーオール」を授かった「デク」の運命の行方まで、この作品がやれる事を今作で全て出し切ったような集大成的超展開のオンパレードで、原作でもないのにここまで核心に切り込んだオリジナルアニメをこれまでの人生で見たことがないし、それに合わせるようにラストの作画も一コマ単位で展開を変えているような超絶技巧の連続で、最高峰と言っても過言ではない水準の描き込みが随所に施されていた。

前半の日常パートはTVアニメのクオリティのままという感じだったので、見始めた時は飽きないか不安だったが、ヴィランが襲来してからの展開は正直原作マンガよりも神がかっていたと思うし、実際今回のヴィランは間違いなく過去最大級の脅威として生徒達の前に立ち塞がる。

なにせ、島一つを雷やら爆発やらでほぼ壊滅させる程の火力を持つ能力者を、プロヒーローが一切不在の状況で迎え撃たなくてはいけないなんて、これまでのヒロアカの中でも一番の無理ゲーとしか言いようがない。

しかし、それでいて戦略を"消耗戦"にする事で、困難な状況でもアイディアと死力を尽くせばなんとかなるシチュエーションにきちんとなっていたし、往年のジャンプ作品によくある気力と根性だけで戦局を覆すような脳筋展開にはならず、対抗する為の術が全て劇中の設定を活かした理論的なものになっていたのはかなり好印象であった。

ただ、だからこそデクが人生を賭して下した決断を、奇跡の二文字で解決させてしまったのはかなり勿体ない。

奇跡を起こすにしても、それに対する伏線を落とし込めなかったのは率直に製作陣のアイディア不足でしかないし、それまでのロジックが納得いくものだった分そこだけが余計に浮いてみえてしまっていた。

また、本編に絡まないオリジナルストーリーの宿命か、あれだけの大事件の当事者になっておきながら、一人残らず変わらぬ日常に戻れるというのもスケールが大きかった分だけ不自然になってしまっていたのも些細ながら残念なところ。

更に、今作でプロヒーローでも相当苦戦しそうな相手をセミプロだけで完全制圧してしまうと、どう考えてもキャラ毎の実力差がインフレを起こすと思うので、最後はプロヒーローの加勢によって解決した方がより自然だったと思う。

そこさえクリアしてくれていれば文句なしの傑作であったが、それを差し引いてもとてつもない熱量に変わりはないので、百聞は一見にしかずという事でどうか一度観てみてほしい。

それにしても、原作でもまだオールフォーワンの力を全然使いこなせておらず、7人いる先代継承者の能力もようやく一つ目が現出し始めた段階だというのに、本編ではない外伝でここまでのクライマックスを演出してしまって本当に大丈夫だったのか。

次作以降でこのクオリティを超えるのはかなり難しいと思うのだが、将来設計ちゃんと考えてるのか心配になるレベルの怒涛のクライマックスを、2作目にして出し惜しみせず持ってきた気概は全面的に支持したい。
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