15年前にDV夫を自分の手で殺した母親とその子ども3兄妹が“一夜”の事件をキッカケに崩壊してしまった家族の苦悩と再生に向けてあがく様を描いたヒューマンドラマ。
子どもたちを夫のDVから解放し自由を与えようとした母親と、その事件がキッカケで生きにくくなり、上手くいかない理由を何かと母親のせいにして恨んで生きてきた3兄妹の対峙が泥臭くて人間の醜い部分を存分に表現している。
愛する者たちのために行動した事が愛する者を苦しめる事になるとは何とも皮肉な話。母親も“私が謝ったら子供たちが迷子になってしまう。”と強い意志を見せる反面、自分のやった事は間違いじゃなかったと自身に言い聞かせてるようにも感じた。
次男雄二の“ただ暴力に耐えてれば良かった”という台詞には、父親の物理的な暴力よりも、世間からの言葉の暴力の方が死ぬほど辛かったんだろうなと切ない気持ちになった。
冒頭の暗く衝撃的なシーンからは想像できないほど、母親の人物像が話が進むにつれ自分にはものすごく魅力的な人間に見えた。言葉じゃなく行動で示そうとする不器用な一面が本当に人間らしく、小柄ながら母の背中が大きく見えた。
中学の時の次男雄二がエロ本を万引きしようとした時の機転のきかせ方だったり、15年越しに自ら堂々とエロ本万引きするなど破天荒な一面が好きだな。
佐藤健の心の芯まで冷えきったドライなキャラも、松岡茉優のおてんばな妹キャラも、鈴木亮平のどもりのある陰キャも全てハマり役で主演級の実力派俳優陣の演技力の高さに魅せられた。それ以上にずば抜けて演技が輝いてた田中裕子の存在感が凄すぎて言葉が出ない…
佐々木蔵之介もそれに引けを取らず、今まで観た彼の作品の中でも飛び抜けて演技が上手くて感動した。田中裕子と佐々木蔵之介の2人の演技を観るだけでも価値のある作品だと思う。出演してる俳優全員が間違いなく実力のある人たちで相乗効果が生み出した素晴らしい仕上がり。
大学の授業で使えそうなくらい重く難しい題材で、好みの分かれる作品なのかなと思う。家族の再生と言うよりは再出発をテーマにしたものなのかな。最後は希望の花が咲くような終わり方でホッコリ終われるいい作品。白石監督の作品は心をかき乱される。
