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ひとよの会社員のレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
2.0
あの夜は一体何だったのか。


子供達を暴力から守るため父を殺めた母は、約束通り戻ってきた。しかし流れた15年という月日は長く、兄、弟、妹、それぞれの受け取り方は異なるものであった。


度重なる虐待に耐えかねていた彼らにとって、その一夜の出来事は、ようやく自由を手に入れたことを意味するはずであった。
しかし実際には事件の噂からイジメや嫌がらせが絶えず、周囲に阻まれ将来の夢を諦めざるを得なかった。あるいは、事件を妻にさえ打ち明けることが出来ず、閉ざされた心はかつての父のような暴力性を抑える歯止めにはならなかった。あるいは、事件を題材にゴシップ記事を書き、家族の崩壊を自嘲しながら生きることしか出来なかった。
そう、彼らは皆、15年前から逃れることは出来なかったのである。


親子の繋がりについて重層性を持たせるために、ある秘密を抱えた人物が登場する。彼も別れた妻との間に息子を持つが、物語の佳境で息子も自らと同じ誤った道を歩みつつあることを知ってしまう。
血の繋がりや遺伝というものは、長く離れていても親子が互いをすぐに認識出来るように、確かに存在するのかもしれない。自らが歩んだ道は、意識的にせよ無意識的にせよ親という存在に強く影響を受けているのかもしれない。置かれた環境は、親のせいかもしれない。犯した失敗は、親のせいかもしれない。
ただし自らの人生である。いくら呪縛があろうとも、親を恨む気持ちがあろうとも、変わらなければならない、とこの物語は説く。人生において強く心に刻まれた出来事であろうと、他人からすればたった一夜の出来事に過ぎないのである。そして、日が昇り夜が明けるように、人生の歩みも進んでいくのである。


家族や人生の崩壊が主題である以上、時に目を背けたくなる程胸を締め付けられるシーンがあり、物語は深刻にならざるを得ない。所々ユーモラスな表現を挟むことで映像作品として観客を繋ぎ止める努力をしているような印象を受けた。
しかし一つ一つの事象は滑稽でも、置かれた環境を一歩引いた途端、「笑えるけど笑えない」。そうした継ぎ接ぎされたカットの数々に対し複雑な感情を抱いてしまうのは、作品の出来映えというよりはむしろ、決して現実とかけ離れた物語として捉えることが出来ない、我々の日常生活に起こりうる生々しさをどこかに感じてしまっているからではないだろうか。
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