カツマ

クロール ー凶暴領域ーのカツマのレビュー・感想・評価

クロール ー凶暴領域ー(2019年製作の映画)
3.8
どうしようもなく逃げられない。襲来する暴風雨のクローズドサークル、逃げても逃げても湧いてくる恐怖の捕食者。絶体絶命の状況下で必要なのは勇気なのか、それとも愛か。ハリケーンで水没していく家の中、父と子の真の絆が試される。モンスターパニック映画としては比類なき完成度を誇る、恐怖のワニ映画がここに降臨。

製作にサム・ライミが入り、監督にこの手のスリラーを取らせたらお手の物、『ハイテンション』のアレクサンドル・アジャを要する、人食いワニ多数登場のパニックムービー!ワニだけではなくて、ハリケーンと水害による恐怖がリンクして、怒涛のパニック連鎖が炸裂する!果たして完全に孤島と化した家を舞台に、ワニとハリケーンと水害のトリプルアタックの恐怖から逃げ延びることはできるのか!?モンスターパニックものと侮るなかれ、その恐怖描写の巧みさはそんじょそこらのB級映画を吹っ飛ばすほど多彩であった。

〜あらすじ〜

水泳選手のヘイリーは大学のレースに出場するもあと一息のところで追い抜かれ2位に終わった。かつては父と共に二人三脚で水泳に打ち込んできた彼女だが、そんな父とも最近は疎遠になってしまっていて、わざわざ会いに行くこともなくなっていた。
その日のフロリダはハリケーンの襲来により暴風雨が吹き荒れる荒天。姉から電話を受けたヘイリーは、父と連絡が取れないので家まで迎えに行ってほしいと請われ、渋々、様子を見に向かった。
だが、父が家にいる雰囲気はなく、そこにいたのは愛犬のシュガーのみ。そこでヘイリーはシュガーを連れ、売りに出されたはずの旧居に父を探しに足を向けた。
旧居は水没寸前。ヘイリーは何とか地下室で傷だらけの父を発見するも、そこは逃げ出したワニの巣窟になっていて・・。

〜見どころと感想〜

ワニワニパニック映画ということでどこのアナコンダ型C級映画かと錯覚するけれど、蓋をあけると正統なパニックスリラーで、ハラハラドキドキの恐怖描写のオンパレード!狭い空間を段階を踏んだ恐怖が襲い、絶体絶命の濃度が濃くなっていく展開もまた面白い。前半はワニ無双。後半はワニに加え、ハリケーン、水害が怒涛のごとく押し寄せ、逃げ場なしの完全無欠の監獄が完成。その絶望感たるや、90分に収まるとは思えないほど太陽の光を感じられない。

主人公のヘイリーが水泳選手、という設定が活きており、そこでタイトルは泳法の『クロール』となっているけれど、Crawlにはatを追加しての『ぞっとする』などの意もあるので、そのあたりを重複させたのかもしれない。とにかく邦題にワニ、というワードを入れなかった配給会社の担当者には万感の拍手を捧げたいと思う。ワニが入った時点で、本作は未公開型のアルバトロス作品の棚に置かれることは確実だろうから。

『メイズ・ランナー』のヒロイン役で有名な、主演のカヤ・スコデラリオの熱演が効いており、ほぼ恐怖の体感度を独り占めするほど、彼女の怖がる演技は絶妙だったかと思う。臆病で自信なさげなヒロインが、父の一声で発奮するシーンも非常に爽快だった。

モンスターパニック映画でもアレクサンドル・アジャが撮ってしまえば、上質なスリラーに早変わり。アジャがもっと大作を撮ったらどうなってしまうのか。彼の監督としてのキャリアに今後も期待していきたいと思います。

〜あとがき〜

昨年話題になったワニ映画ですが、90分の間にビッチリと恐怖描写を詰め込んでいて、退屈な時間は皆無。この手の映画の中ではかなり面白い方だと思います。父娘の話が根底として貫かれているため、ドラマ要素も内包していて、ラストカットの猛々しさはもはや感動的ですらありました。

しかし、クロールというタイトルなので、まさかワニの巣窟を泳ぐのか?と思いましたが、いやはや、まさかの大好きなシーンになりましたね(笑)
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