ウサミ

罪の声のウサミのレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
4.1
老舗の仕立て屋を営む、星野源演じる俊也は、“1984”とラベルされたテープを見つけ、そこから流れる自分の声が、かつて日本中を騒がせた企業脅迫事件に使われたものと知り愕然とする。
一方、大手新聞社の記者である小栗旬演じる阿久津は、時効が過ぎたその事件を追う担当記者に任命され、真実を解明すべく取材を行う。

歴史上実際に過去に起きた犯罪を想起させる事件を軸に、そこに意図せず関わってしまった罪なき人々の苦悩を描く。

戦後の資本主義国家の誕生のしわ寄せを受けるように反発した学生運動家たち。彼らのその「闘争」は、正義という大義名分のもと醜い欲望にまみれ世間を混乱に陥れる。
そこに巻き込まれる罪の無い者たち。事件が時効を迎えようとも、彼らが事件から解放される日はそう来ない。

140分の長尺を苦痛としないエンターテイメント性が目を引きます。
事件の全貌がジワジワと明らかになる様は丁寧かつ、贅肉がなく素直に面白い。点と点がつながる気持ち良さがあります。
重苦しいテーマを描いた映画ながら、「クドさ」はなく、映画が持つテーマを感じやすい。『新聞記者』のように、過度にフィクションを感じさせる部分もなく、スムーズでした。
演技も安定の俳優陣。松重豊や古舘寛治・市川実日子の説得力、梶芽衣子や宇崎竜童のリアリティ。華のある小栗旬と星野源の二人もまた良い味わい。子役や少女役に至るまで、みな自然で素晴らしい。関西弁はところどころ⁉️でしたが、それがノイズにはなりませんでした。

人は幸せを奪われようとも、それは他人の幸せを奪う権利を与えられたことにはならない。
ネット社会が過熱し、人が簡単に人を叩ける現代。正義という大義名分のもと勝手に人を傷つける権利を与えられたと勘違いしているという点では、いまも昔も変わらないのではなかろうか?
真実を知り、人がそこから学ばなければ、歴史に意味はありません。本作は、その役割を担う「マスコミ」の役割をまっすぐ描いており、見応えがありました。

残念なのは、記者として真実を追う小栗旬の精神世界の描写がやや薄めかなぁと。彼なりに記者としての矜持を見つけたのだろうと思いますが、そこの葛藤をもう少し深く観たかったなと個人的には思いました。
星野源の精神世界の掘り下げも、もう少し欲しかったかなぁ、ちょっと記号的なキャラに感じた。

耐えきれないような現実の過酷な描写は心を打たれ、涙が出るシーンも。
140分を感じさせない映画ってかなりレアなので、劇場にて是非。
ウサミ

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