ひでやん

はちどりのひでやんのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
3.6
大人と子供の間で揺れ動く繊細な心。

家のチャイムを押してもドアを開けてくれず、まさかの階数間違えというオチになる冒頭から少女の孤独が感じられた。親の無関心が少女に、帰る場所がない、居場所がないという不安を与えているのだろう。誰もが皆、思春期を通過して大人になっているはずなので、大人は判ってくれないんじゃなくて、自ら「体験」して判っている。しかし、仕事や人との付き合いに追われる中でその「体験」を忘れ、かまっている暇がなくなる。

空前の経済成長を迎えた1990年代の韓国・ソウルを舞台に、餅屋を経営し、集合団地に5人で暮らす家族の日常を14歳の少女の視点から描く今作。家父長制による厳格な父、不仲の両親、父の期待による重圧から暴力を振るう兄、毎晩遊び歩く姉、不良を選別し、学歴こそがすべてと叩き込む学校。そんな少女の日常を観ていると抑圧で息苦しくなった。

14歳の頃の自分はとにかく遊んだな。勉強嫌いでね、うん、遊んだ。例えば、漫画家を目指す者に包丁をプレゼントしても板前になるつもりはないからしょうがない。勉強が嫌いなら遊べばいいと思うが、大学入試がすべての韓国ではそうはいかない。「私はカラオケではなくソウル大に行きます」と何度も言わせる教師をビンタしたくなる。そんな抑制された心がトランポリンの上で跳ねるシーンが爽快だった。

ソウル市の学生人権条例が校則見直しの大きな転機になったが、北朝鮮では未だにパターナリズム全開だ。異色的な文化はすべて排除って、そりゃないよ。髪を染めてもピアスしても、人を傷付けなければいいと思うのだが。

知っている人の中で本心まで知ってるのは何人?

連絡がないボーイフレンド、裏切る親友、心変わりする後輩、どんな信頼関係であっても本心は本人しか知らない。耳の下のしこりは心のしこりかと思ったが、単に監督の体験を描いただけだったのかもしれない。キム・ボラ監督が、自身の同時期の思いをベースに描いているので大きな出来事の連続はない。淡々とした描写だからこそリアリティがあるのだろう。

街で母を見つけて声を掛けるシーンで、なぜ母が無視するのか解らなかったので調べた。「母親」という役割から解放されているため、子供の声が聞こえなかったらしい。なるほど。実際に起きたラストの崩落がなんとも言えない余韻を残した。先生がくれた白紙のスケッチブックに夢いっぱいの未来を描いてほしい。
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