まりぃくりすてぃ

はちどりのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
3.7
◇褒めれるとこ◇
① 冒頭シークエンスのオチ “902/1002” が非凡。
② 以降も、ルックは(アプローチから仕上げまで)常に上質だったみたい。説明に頼ってないし、じっくりつきあわせる。「かんさいげ(=監督・才能・ありげ)」で「とりか(=とりあえず・佳作)」な感じが、映画館で映画を観てるぅってキモチにさせてくれた。
③ 主役ウニへの味方してあげたさを持続させる、共感力映画としての善さあり。ウニ&ウニ役を監督が慈しんでるのが厭味になってない。
④ ウニという名が面白い。もう何年もウニ食べてないなぁ。ぐぅぅぅ ☜もちろん胃の鳴き声
⑤ カラオケんとこ。気のない唄い方がかえって旋律を際立たせた。サビも聴きたかったな。

◆悪いとこ◆
❶ 家族五人の顔立ちに自然なつながりが感じられない。それによって “心バラバラ” を表現しようとしてるわけではなさそう。単にキャスミスだろう。せっかく小説じゃなく映画で魅せようとしてくれるんだから、そこ頑張ってほしかった。
❷ 不快要素として明確な意志をもって描き込まれた「兄の暴力/父の君臨」には、「愛が足りないから調和もない」「オスの本能がこう」「後進国や昔にありがちな家父長制社会がこう」「儒教社会が特にこう」「いびつな半戦時中が続いてて男子徴兵制の弊害で、男があからさまに女を下に見ようとする」等々が濃く入り込んでるのに、映画作品としてそれらの因子をどう取り扱っていきたいのかがあまりにもノーメッセージすぎて、思春期モチーフにばかり甘えすぎてる。十代の観客だけを想定した教育映画ってならOKだけど、2020年の私たち大人にこれを見せて何をどうするつもりなの?
❸ 観客(私)の人生の貴重な138分を奪うわりには、ムダにうじうじしてる上に、プロットが弱い。画づくり能力にシナリオ能力が追いついてないから(なんだけども、この特徴は、佳作と残念作を見事に兼ねてたユン・ガウン♀の思春期いじめ映画『わたしたち』と同じ)だ。

◆プロット問題◆
メリハリがなさすぎる。無条件にじっくり心地よくそういうのにつきあえるのは前半だけだ。
「耳の下の腫瘍」をマクガフィンにしたのは作り手の余裕であるより青臭さの露呈。もっと首全体が腫れてくるとか苦しそうとかそういうのがないから本当に悪い意味でのマクガフィンだ。
せっかく冒頭で号室まちがえて真下をピンポンするわけだから、後半にウニが癇癪起こして床ダンダンの直後に真下の住人が「うるさいぞ」と訪ねてくる、とかそういう当然思いつかなきゃいけないワザがない。
散漫ってほどじゃないけど、けっこうあっち行ってこっち行ってのストーリーが思春期ヒリヒリと家族ビリビリのリアリティー以上の何か価値を連れてきてるとは思えなかった。飽きさせるわけじゃないから充分酔えて泣けたって観客もいるだろうけど、私は合格印を捺さないよ。
もうほんと中篇(せいぜい85分尺程度)用のシナリオにすぎない。
もっとちゃんと命を懸けて長篇シナリオ書いてほしいな。撮影で世界は変えられないが、物語で世界は変えられるんだから。コロナ騒ぎで露呈した悪意と幼稚さだらけのこの地球を、少しずつでも変えていかなきゃ仕方ないでしょ?
そんな中、北朝鮮ネタの差し挟みがたいへんウザイ。(『パラサイト』と同じで、アメリカで受賞させてもらうためにそれがマストってことね。くだらん。)
さて、まだアンチレビューでも何でもないよ。いよいよ致命的な一点を書いておこうね! それは、塾の女性講師!
そう、全キャラ中、女性講師だけがウニにとっての真に大切な役ってことでスペシャルな距離感自体はメリハリのハリを担いそうだったけども、、、、ぶっちゃけ、魅力ゼロ。女優そのもの(外貌・喋り方ほかすべて)も、つけられた演出も、セリフも、誘引力を何ら私に伝えてくれなかった。この私が今すぐその女優ぶんのセリフ全部書き直してあげて彼女と交代して陽気に演技してあげたらこの映画、秀作になりそう。必ず必ずいいセンセになってみせる。お洒落の仕方とフックとカウンターとクロスカウンターの打ち方を教えてあげるとかね!
それと、、

▼▼ネタバレ注意▼▼

それと、私なら、21世紀の映画ではもう後半に人を死なせないよ。飽きた。人の死に頼らずに物語は創ろうよ。思春期の頃に小説や漫画かくとみんなだいたいそういう内容になっちゃう。でも、もう大人対大人だから。
どんな生活をしていても私たちは一人ひとりが人生のかけがえのない主演俳優。みんながそれぞれのドラマを真剣にみっともなく美しく生きてる。そんな誰かの貴重な138分とお金をこのメチャクチャな世界の中で取るのなら、作中人物を死なせて褒められようとするよりも作者自身が死力を尽くしてね、まずは。

撮影では世界は変えられないんだよ、ほんと。


でも、映画としてはまあまあいいほう。

うん、まあまあだったよ!! おわり



◇追記◇
わーい、曲名わかった。
ウォン・ジュニ「愛はガラスのようなもの」https://youtu.be/U7rnVXHdYGw