はる

燃ゆる女の肖像のはるのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.9
良い作品だということは知っていたからその内‥と思っていて、図らずも『WW84』に続いて女性監督、女性主演のものを観ることになった。ほとんど情報を入れないで観たのだけど、もう冒頭の描画のシーンから「これは間違いない」と思わせるし、観ている途中でも「なんて素晴らしい作品なんだ」と感動が波のように寄せてくる。

18世紀末という舞台設定だが、その当時の風俗、男女のお互いの見方、社会的な位置付けが早い段階で提示されてそこから、という流れを極めて少ないセリフと美しい映像で見せるのは本当に良く出来ている。
もうネタバレでいいと思うが、冒頭の船のシーンから長回しを繋いでいて、それは基本的に作品を通じて貫かれている。船から荷を落としたマリアンヌは漕ぎ手の男たちを見るが、誰も手を貸すつもりがない。そこで躊躇なく飛び込むのがマリアンヌという女性なのだということがわかるし、男が女にどういう態度であるかも示される。上手い導入だ。

しばらくすると劇伴を使わない作品であることがわかるし、その中で自然の音や登場人物の所作、そして炎などが代わりに印象付けられる。昼間は自然光、夜間でも極力照明を排したと思われる撮影との親和性も良く、その辺りは珍しい取組みでもない。しかしその中での「音楽」の使われ方が見事だし、あのラストの感動がより強くなる。今作は芸術への信奉もテーマになっていると感じたが、それを享受するための感情、情熱が大事なのだということなのだ。エロイーズがあのようにして、肖像画に消えない愛情を込めたり、ヴィヴァルディの演奏に心を揺さぶられるようになったことが嬉しく感じられる。

今作はアップが多く、そのおかげで主演二人の移ろいも見て取れる。またエロイーズの顔が初めて見えるシークエンスの素晴らしさは言うまでもなく、アデル・エネルの美しさが印象づけられたし、そう意図したセリーヌ・シアマ監督の想いが感じられた。だから後で二人が元恋人だったと知って納得してしまった。
ノエミ・メルランは安定しているのだけど、アデル・エネルの顔は驚くほど変わって観える。どれほど意図されたものかはわからないが、物語での二人の立場、状況をそのまま反映していると思えるので、本当に素晴らしい。

こうして年末にまだベスト級の作品が観られて良かったなと思う。
はる

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