ギズモX

プライベート・ライアンのギズモXのレビュー・感想・評価

プライベート・ライアン(1998年製作の映画)
5.0
【栄光なき二級天使ども】

「バートは負傷し銀星章を」
「アーニーはパラシュートでフランスへ」
「マーティは主要な橋の占領に参加した」
「ハリーは大きな活躍をした」
「味方の輸送機に突っ込んできた2機を含む、敵機15機を見事に撃沈したんだ」

「ジョージは何を?」
『素晴らしき哉、人生!』より

皆ご存知、スティーブンスピルバーグが手がけた伝説の戦争映画。
第二次世界大戦時のフランスを舞台に、三人の兄弟を亡くした二等兵を故郷アメリカに帰還させる救出作戦に赴いた小隊を描く、リアル系戦争モノの最高峰。

個人的にはノルマンディー上陸作戦よりも、ラメルの戦いのほうがよく出来ているなと思っている。
戦車をあれやこれやで撃破したら、間髪いれずに20ミリ機関砲の集中砲火を受けるなど、次から次へといろんな戦闘シーンがジェットコースターのように繰り広げられていて、観ている内に自分もそこにいるかのような感覚になってくるんですよね。

ところが、この映画にはかなりおかしな点がある。
"どうしてこんな物語になったのか?"
だってこれ普通に考えたらあり得ない話だ。

そんなことをするぐらいならジャクソンの言ったようにヒトラーを倒す物語にすればよかったし、何ならノルマンディー上陸作戦だけに話を絞れば、もっとリアルかつスペクタクルで迫力のある映画となっただろうに。

僕は長い間、これがどうしてもわからなかった。
子供の頃に観た『プリンスオブエジプト』を再び鑑賞するまでは。

『プリンスオブエジプト』はこの『プライベートライアン』を制作したドリームワークスによる、旧約聖書の出エジプト記をスペクタクルアニメ化した歴史映画。
古代エジプトで奴隷となっているヘブライ人を故郷イスラエルへと帰還させる使命を受けたモーセを描く物語。
旧約聖書ではモーセはイスラエルの地を踏むことはできなかったが、その目と気力は最後まで衰えていなかったと記されている。

これは『スモールソルジャーズ』のレビューでも書いたことなんだけど、1998年に公開されたドリームワークス作品

『プリンスオブエジプト』『スモールソルジャーズ』『アンツ』『ポーリー』『ディープインパクト』そして『プライベートライアン』

これらの映画はそのどれもが
『とんでもない状況に放り出されてしまった者達が、お互いに協力して困難に立ち向かっていき、最後にはそれを乗り越えて自分達の故郷へと帰っていく』
といった感じになっていて構図が似ている。
そしてもう一つ大事なことがあって、
この映画のミラー小隊や『プリンスオブエジプト』のモーセ、『スモールソルジャーズ』の主人公アランには一つの共通点があり、それは"彼らを故郷へと導いた存在"だったということだ。
あの『素晴らしき哉、人生!』で主人公ジョージを自殺から救った二級天使クラレンスのような役割を持つ存在。
どうしようもならない状況に陥ってしまった者達になんやかんやで手を差し伸べて、故郷の入り口まで案内して去っていく。

僕は『素晴らしき哉、人生!』はジョージよりもクラレンスの物語だったのではないかと考えている。
何度も繰り返し観ていたら、実はジョージだけではなく、クラレンスの人生も同じく悲惨であることにある時気付いた。
人間だった頃は只の時計職人で、おまけに数百年もの間落ちこぼれのままだったけど、それでもなお悲観的にならずに一つの現実を実体験させてジョージを救おうとする。

あの映画の中盤では第二次世界大戦を振り返るシーンが導入されていたし、クラレンスがジョージの半生を覗く形で物語が展開されていたから、この映画は『素晴らしき哉、人生!』と凄く繋がっている作品なんじゃないかなと個人的に思っていて、
ミラー隊長がライアンに向けて放った
「ムダにするな」
「しっかり生きろ」
の一言に、僕は二級天使クラレンスの姿を思い浮かべています。

あと、『プライベートライアン』はアメリカを賛美した戦争映画なんじゃないかいう意見をよく耳にする。
軍隊や国に関していうならそれはないと思う。
『スモールソルジャーズ』や『アンツ』はどっちも軍の司令官が悪役で、これでもかといわんばかりに、アメリカをルーツにした軍隊をコケにしていた。
ただ、あの大戦で犠牲となった兵士達に敬意を捧げているのは間違いない。
この映画の筋書きはあの『七人の侍』にも似てるところがあって、そして『七人の侍』での最後のセリフが、このことを的確に表しているんじゃないだろうか。

「勝ったのはあの百姓達だ、わし達ではない」

普通の人間の視点から描いた戦争映画であることが、この映画の最大の良さだと思います。

僕のイチオシキャラはもちろんジャクソン二等兵。
あのジェスチャーのカッコ良さは伝説級。
つい最近まで、彼がつぶやいていた祈りは詩篇18篇のことだと勘違いしてました。(正しくは詩篇144篇)
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