翼

フリー・ガイの翼のネタバレレビュー・内容・結末

フリー・ガイ(2021年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

ゲームは現実を超えた。価値観的な意味でも。

NPCが意思を持ったら?人工物が自我に目覚めるというのは古くはピノキオから、数多のロボットモノで創造され、時代はAIプログラムにまで来た。ゲームの主戦場が家庭用ハード機からネトゲに変化し、現実で叶わない様々な夢を仮想空間で叶えることが大衆の夢となった。メタバース時代を切り取る小ネタもたくさん散りばめた、2010年代をパウチして保存する価値ある作品だと思う。

本作ではファンタジー(ゲーム世界)とリアル(現実世界)は交錯しない。90年代作品なら最後ガイが受肉し現実のミリーとキスして終わりそうなところ、彼はゲーム内で友人たちと幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。で幕。コレが今っぽいなーと思う。【ゲーム < リアル】と決めつけずそれぞれの求める形に棲み分ける、幸福の多様性。あるべき幸せ像を押し付けない、非干渉な感じ。
似たシチュエーションはトゥルーマン・ショーで、トゥルーマンは管理された人生なんてイヤだーって飛び出していくわけだが、ガイはそもそもAIである自分に不平を感じていないし、「出来ないことが出来る」という意味ではリアルよりゲームの方が優れている面もある。(もちろん仮想空間ではバブルガムアイスの味はわからないが。)いずれにせよ、「ファンタジー世界の住人が現実世界に憧れる」という片想いは成立しなくなってきたことに価値観の進化というか多様性を感じる。
これが2030年頃の映画になったら、現実世界の人がファンタジー世界に住んでハッピーエンド!なんて作品も出てくると思う。そういった意味でも、多様性を社会が迎合し始めた2010年代のネトゲ黎明期を象徴する作品だと感じた。

これだけ先進を貫く作風なのに、救い出してくれる王子様のキスで目覚める古典的な演出や、モブであるキャラクターにも人生があるぞ!ってのを現実の会社員プログラマーたちにも当てはめてるところとか絶妙。アイデアだけでなく、映画として優れた細かい仕掛けを説明臭くなく落とし込んでるところに名作の所以を感じる。

ライトセイバーを握ってしまうと、誰でもニヤつきながら振り回す衝動に勝てない。
翼