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朝が来るの一のレビュー・感想・評価

朝が来る(2020年製作の映画)
4.4
『光』『あん』の河瀨直美監督作品

ストーリー・映像・脚本・撮影・演出・編集・音楽・役者とすべてが揃ったハイレベルな傑作
もっと言うと個人的には河瀨直美最高傑作

監督自身が養子という環境で育った経験が、この映画にとって間違いなくプラスに働いている

育ての親と生みの親が対峙するという意味では『八日目の蝉』『夕陽のあと』などを思い起こさずにいられないテーマであり、どちらも素晴らしい作品ではありますが、本作は構成や重きを置いてる部分がまるで違う

ドキュメンタリーのような雰囲気すら漂わせながら、育ての親の背景、生みの親の背景、そして二人のその先という大きく分けて三つの構成を、洗練された理想的なリアリズムで語られる

どのようにして特別養子縁組をしたのか、どのように子を授かりなぜ手放したのか、そしてなぜ二人の親が交差するのか、それら全てが美しい映像と共に無駄なく非常に丁寧に描かれている為、140分という尺になるのは致し方ないし、間延びすることなく綺麗にまとめていると思います

河瀨直美監督と言えば、毎作美しい自然や美しい光の映し方や使い方が感動するほど巧いのですが、本作は過去作に比べそれらも飛び抜けてるという印象

役者陣は子役の方も含めて本当に全員素晴らしかった
そんな中でも蒔田彩珠と浅田美代子は特に印象に残るほど抜群に上手い
蒔田彩珠は『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『星の子』などでも感心するほど魅力的な演技を魅せてくれましたが、本作でも年頃の女の子が環境により徐々に荒れていく演じわけがとんでもなく素晴らしかった
浅田美代子も下手な役者さんだとただの胡散臭いおばさんにしか見えなくなる難しい役ですが、見事に施設の善人を嫌味無く演じきっている

初期作の頃の芸術色の強い作品というよりは、最初に上げた二作に近い雰囲気ですが、芸術性も失わずにしっかりエンタメ性と両立させ、万人に見易い傑作と言える

河瀨直美による重苦しく重厚な人間ドラマともなれば期待せずにはいられない
しかしそんなハードルは軽々と超えてくる
やはり誰がなんと言おうと河瀨直美は天才だ

とりあえずエンドロールで絶対に帰らないで下さい

2020 劇場鑑賞 No.082
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