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Winnyのdeenityのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
4.6
とうとう節目の1500本目です。1000本の大台に乗った時は結構達成感もありましたが、それ以降は100本ずつの達成感は薄れつつありました。ただ、2000本に向けてようやく半分ということで、多少実感もありますし、また再スタートのつもりで頑張っていこうと思います。

そんな記念の作品に本作。20年前に実際にあったWinny事件を描いた作品。まだ小さかったこともあって、「Winny」に関してはほとんど記憶にありませんが、誰でも使えるファイル共有サイトのことで、当時の技術的に先端を行くものだったようですね。

そのWinnyを作ったのが、東出くん演じる金子勇というプログラマーです。彼は天才的なプログラマーで、普通のエンジニアが3年かけるようなプログラミングを2週間で完成させるほどの優秀な人だったみたいです。

実際自分はWinnyに関する印象がなかったため、周囲の年上の方に聞いてみたところ、「あのやばいやつね」という返しでした。
これがリアルな一般の印象なのだと思います。

ただ、本作中でもありましたが、「ナイフを使って人を殺したとして、ナイフを作った人を罪に問えますか?」と表現していました。
この「ナイフを作った人」にあたるのが金子さんであり、たしかにそれ自体を悪用されてはしまいましたが、Winnyを作ったというだけで罪に問われることなど世界的に見ても類を見ない判例だったようです。

金子さんの罪状は「著作権法違反幇助」というもので、著作権違反を蔓延させようとしたことが問題とされたようですが、金子さんは生粋のプログラマーであり、2ch内では47氏として多くの人に応援され、人柄的にもそんな悪意は読み取れませんでした。
では何のために警察側は立件したのか、ということが本作のテーマにもなっていたように思います。

本作の作りとして面白いのは、愛媛県警の裏金問題について言及していく吉岡さん演じる仙波のエピソードも随所に差し込まれていた点です。
この事件が発覚したのが、Winnyによる情報漏洩だったということで、警察側の真意は不明確だとはいえ、暗に隠蔽や揉み消しを仄めかしているようにも思えました。

本作はストーリー的にも演技的にもテーマ的にも、あらゆる面で深みがある素晴らしい作品だと思いますが、唯一気になったのはこの作りの部分でもあります。
もちろん、この2つのエピソードがラストに向かうにつれて集約されていく構成は展開として面白く、映画として楽しむことができました。しかし、テーマとして考えた時に、どうなんだろうという思いもありました。

本作の作り上、どうしても警察側の裏の意図は感じてしまいますし、事実はその通りなのかもしれません。
しかし、本作のテーマとしたいところは、日本の警察どうなん!?ではなく、金子勇という1人のプログラマーが生涯をかけて何のために闘ったか、ってとこにあるはずです。

ラストに金子さん本人のインタビュー動画が残っていましたが、「目立ちたくないし、影響も与えたいわけでもない。ただ、山があったから登ろうとしただけ。」だと。「悪用を考えて作るプログラマーはいない。しかし、この事件が有罪になれば、誰もチャレンジしなくなる。次世代の若い人たちを思って。」だと。
そんなコメントを残されていました。
だからこそ金子さんが一審でそれでも有罪を突きつけられる現実の虚無感とか、それを経て尚無罪を勝ち取っても、そこにスポットをあてるのではなく、むしろ虚しさを抱かせるような「無罪」の勝訴画像で終わったんだと思っています。
誰よりもプログラミングをしたかったはずの優秀な人が、「裁判に勝つことが自分の仕事だった」と悲しくこの世を後にした現実。無知故に大きな可能性の芽を摘んでしまったこと。また、その人が人生をかけて勝ち取ってくれた、これからの無限の可能性。

そういうところに目を向けてほしいというテーマ性ならば、印象操作的な警察のくだりはストーリー的には良くても、テーマに響くような後味悪さだけは残してほしくはなかったので、そこだけ唯一残念でした。ただ、作品としては素晴らしい出来だったと思います。
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