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見えない太陽のakrutmのレビュー・感想・評価

見えない太陽(2019年製作の映画)
4.0
イスラム教テロ組織に傾倒し、シリアに戦士として向かおうとするアレックスと、彼をどうにか改心させようとする祖母のミュリエルを描いた映画。2015年の春の出来事として描かれており、同年11月に実際に起きたパリ同時多発テロを意識した作りとなっている。アンドレ・テシネ監督の作品に何度も出演しているカトリーヌ・ドヌーヴの重厚な演技はさすがである。この歳になっても現役バリバリなのには恐れ入ってしまう。

ストーリー的にはわりと地味であるが、さすがは実力派監督であるアンドレ・テシネ監督だけあって、丁寧な描き方をしている。この種の映画ではイスラム教=テロリストみたいな描き方になりがちであるが、本作はその違いをきちんと表現している。例えば、祖母のミュリエルはアレックスがイスラム教に入信したことを知っても、なんとなく不審な感じは抱きながらも、孫の意思を尊重する。彼女がアレックスを改心させようと行動を起こすのは、お金を盗んで戦地に赴こうと計画しているのがわかってからである。また、アレックスと幼馴染で恋人のリラが、自分の都合の良いようにイスラム教の教義を解釈するような場面も出てくる。また、アレックスがなぜテロ組織に傾倒したか(リラが勧誘したような雰囲気は匂わせるが)は全く描かれない。これも、特段の理由もなく、なんとなく現状に不満を抱いている若者たちがISILなどに入信していくという現実に即している。アレックスを説得するようにミュリエルから依頼された元テロリストの男性の口からも、そのようなことが語られている。さらに、本映画の結末からはこの問題の難しさを感じることができるなど、世間的には最近この話題は下火になっているが、このような現状を知る上でも、本作は重要であろう。
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