Daisuke

音楽のDaisukeのレビュー・感想・評価

音楽(2019年製作の映画)
4.3
[せーの]

主人公が囚われていたもの、その正体はおそらく「虚無感」というものだ。

何をやっても何をしても、心の奥底まで何も響いてこない毎日。あの「無表情」はシュールなギャグというヴィジュアルだけでなく、実は何も感じない現状を表しているように見えてくる。

だからこそ自ら発生させた「音」が、虚無感を吹き飛ばす瞬間に涙が出てしまった。
それは音楽だけでなく、何か心が震える喜びを見つけた事がある者なら誰もがわかるはずだ。

そしてこの作品が何より素晴らしかったのは、その「虚無感」がすぐに襲いかかってくるところである。
主人公のある行動にビックリしつつ笑ってる人が多かったが、自分は涙が出てしまった。あのギャグの裏側に隠れているのは「心に響くものが持続しない哀しみ」なのだ。

何かに夢中になる事を皆は知ってるだろう。その逆に、何かに冷めてしまう事も知っているはずだ。
長回しが強調され、その虚無が主人公と画面を覆いつくす。

主人公のラストに繋がる動機に関しては、あまり詳しくは描かれていなかったが、しかし手にしたものが本当に最高だった。
日本に住んでる私たちなら絶対に忘れる事のできないあの「楽器」を手にする事で、ノスタルジーを孕んだ強烈なエネルギーが画面を覆いつくす。

そもそも制作者が7年間コツコツ書いた4万枚もの手書きの絵に込められたものが、あのフェスでついに爆発する瞬間、自分の魂の鼓動をどうやっても止める事などできない。

これは、音楽に出会う事で、
「虚無」へと戦いを挑んだ、一人の漢の物語だった。
Daisuke

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