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リスペクトのKKMXのネタバレレビュー・内容・結末

リスペクト(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 ソウルを好きになったのは大学時代に『ブルース・ブラザーズ』を観たことがきっかけです。JBとレイ・チャールズ、アレサ・フランクリンのパフォーマンスにヤラれて、それ以降はガッツリ好きなジャンルとなりました。
 とはいえ、やはりフェイバリットはJBであり、さらにソウルを聴く時のバイブルであった『レコードコレクターズ増刊・ソウル&ファンク』でアレサが特集されていなかったため、結局ベストをチロっと聴いた程度で、アレサの背景もほとんど知らない状態で鑑賞しました。おかげでかなり新鮮な驚きを持って本作を受け入れることができました。正直冗長だったけど面白かったです。


 本作は男たちに支配された女性がアートを武器に闘い、やがて勝利していくも虚無に支配され、そして愛を実感して平穏を得ていく物語でした。実在のアレサ・フランクリンの人生をなぞる話ですが、普遍的な流れがあるなぁと思いながら観ました。
 アレサの人生は支配関係からどう脱出し、どう着地していくかのひとつの定型パターンのように感じました。そのため、完全ネタバレでその流れを考察したいと思います。


①被支配期
 アレサは有名な牧師の家に生まれて、幼少期から天才でした。母からはめちゃくちゃ愛されて、音楽のベースも母との関係にあった印象です。しかし、父親はDV野郎で母とは別居して暮らしており、アレサは父親に支配されてました。プロになったのもレーベルを決めたのも父親です。
 その後、テッドという男が恋人となります。父から救い出してくれたように思えましたが、コイツもアレサを支配します。テッドにアレサが「私を連れ出して」と訴えますが、連れ出してもらうのでは、被支配の構造は変わりません。自分から脱出しなければ。
 しかし、それが元々できる輩はホドロフスキー師匠のような生まれ持ってパンチが効いているタイプじゃないとなかなか難しい。アレサは結構穏やかな性格で、男性に対するトラウマもありました。なので、かなり支配問題で苦しみます。

②闘争期
 先輩シンガーのダイナ・ワシントンに「歌いたい歌はなんだ?」と問われたりしながら、自分を模索するアレサ。そんな折、南部レコーディングの話が来て、マッスル・ショールズ・スタジオと運命の出会いが訪れます。ここでアレサは自らのアートを開花させることに成功し、抑圧からの解放を歌にしていきます。また、姉妹をコーラスとして呼び寄せて、チーム化していきます。こうやって『自らがコントロールして生きる』体験が自立の芽を育むのだと感じます。
 ついに『リスペクト』でブレイクしたアレサ。テッドの暴力に怯えつつも、テッドが反対したヨーロッパツアーを敢行し、ここでテッドに三行半!この時のアレサの顔はサイコーでしたね。しかし、すぐにツアマネと寝るあたり、アレサのひとりで在れない問題は根深い。この後も父親にニーナ・シモンばりに黒人が闘争を続ける必要性を説いて父とも枝を分つのはなかなか観応えありました。
 しかし、先に述べたニーナ・シモンもそうですが、闘争は支配から逃れるには不可欠ですが、その炎は自らを燃やし尽くすのですよね。脱出しても、独りで立つ力は育ってないのです。

③虚無期
 闘争期の後半で精神的支柱であるキング牧師を失い、尊敬する活動家アンジェラ・デイヴィス(ストーンズの佳曲『スウィート・ブラック・エンジェル』のモデル)の逮捕等、アレサの心に穴が空きます。
 劇中では彼らの喪失がアレサをアルコール依存に誘った印象がありますが、遅かれ早かれ独り立ちしたアレサは虚無に侵される運命だと思います。元々自らに軸がなく、依存して生きていたアレサなので、支配から逃れても独りで立てるわけがないのです。
 では何が必要か。愛ですね。愛を実感して内側に留めること。これがなければ自立は不可能。アレサは亡き母親=神でした。やはり教会コミュニティで育ったアレサにとっては、自然な流れなのかもしれません。親子関係で愛を得ていれば、それを想起して意識化していくことで難局を乗り越えて行くのでしょう。特にアレサの母はとても純粋にアレサに愛を注いでいましたから。
 パートナーの存在も意外と良かった。彼が常に側にいたからアレサは母の愛を思い出せたのかもしれない。本当にひとりぼっちだと、視野が狭窄して思い詰める方ばかりに行きますので。

④アメイジンググレイス期
 これまでのアレサが統合されていく印象です。内側に軸ができて、独り立ちできました。おそらく、神との関係も、昔であれば依存する形になったと思いますが、この時のアレサは神とともに在る感じです。愛によって作られた軸が、独りで立つことを可能にして、さらに重要な他者(神も含む)との関係も安定的に、ある意味対等に結ぶことができるようになったと思います。
 支配-非支配のときは『縦列関係』、そして自立後は『並列関係』になっていったと感じます。並列関係に至ることで、人は自分を獲得して自分を生きていくのだと思います。


 そのような流れが、アレサの素晴らしい楽曲と、アレサを演じたジェニファー・ハドソンの神懸ったパフォーマンスで見事に描かれていたと思います。描写も不必要にドラマティックにせず、比較的淡々と描いていたのも好感持てました。
 ただ146分は長かったです。『ドライブ・マイ・カー』『最後の決闘裁判』といった同時期の長尺作品に比べても冗長でしたね。
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