はる

ミッドウェイのはるのレビュー・感想・評価

ミッドウェイ(2019年製作の映画)
4.0
某映画誌では「真夏の珍事」とまで言われるくらい、エメリッヒが好作品を撮った。実際そうだと思う。予告編の時点ではまず観ない類のものだったのに、いざ公開が近づくと「出来が良いらしい」という。
観ればわかるように、意外なほど抑制の効いた仕上がりで、戦争に邁進していく前の日本から描くという構成もうまくいっている。レイトンと山本の因縁を示し、レイトンが日本の事情、指向を研究していたところの描写から始まるのが本当に良い。
ドイツ人であるエメリッヒが日米の海戦を撮るというのはちょっと面白いが、彼はこの題材を20年あたためていたと言うから相当に入れ込んでいたのだろう。そしてそういう出自の彼だから旧日本軍側の描写にも配慮があったのだろうし、米軍側とともに俯瞰した視点があったのかと。

真珠湾攻撃から描いたことで、その後の太平洋戦争の序盤の推移が示された。日本がまず奇襲し、米国が日本本土を空爆、そして日本側にミッドウェーを攻略する必要性が生じた。奇襲されて多くの死傷者が出た米軍側には、ミッドウェーで旧日本軍を叩きのめすモチベーションが充満していたから、徹底した情報収集と作戦立案によって「当時最強の日本海軍」とのやや不利な戦いを実行し、見事に勝利したということになった。
もちろん作劇のために単純化されたものだとしても、全体の流れ、連鎖していく敵対心、憎悪の禍々しさをしっかりと織り込んでいて良かった。

真珠湾以降の非戦闘時の運用の中でも人的損害が続く描写なども戦争行為の虚しさを印象付けるし、いかにもな高揚感を極力排除した演出も良い。そうしたエメリッヒの態度をより評価するのは日本の観客ということになるだろう。中国資本が、とかはどうでも良くて、史上稀に見る大海戦を現代の視点から振り返り、映像技術の進化を活かしつつ(誇張は多々あるが)、抑制の効いた物語にした判断を評価したい。

そしてインテリジェンスと合意が物事を正しく進めるために重要なのだ、というメッセージはまさに今の状況に響く。
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