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犬王のdenizのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
3.8
「これは奪われて奪われたものたちの物語」

時は室町。
呪いを受け、異形に生まれた能楽師の犬王と、
平家の呪いを受け、盲目となった琵琶法師の友魚。
ふたりの盛者必衰を描いた、想像してたより遥かに陰々滅々なジャパニーズロック絵巻。
 
開始5分の夥しい情報の暴力たるや。
目と耳と脳へのフルコンボ。
最近のジャパニメーション、まじで凄すぎでは…?
誰もが知る軍記物語に対し、"異形"と"エンターテイメント"から迫る視点は面白いアプローチだと思った。
犬王の、非均整から生まれる美しさ。面白さ。
長い右手を地につかせ、空高くそびえる片手倒立。
嗚呼、彼はなんて自由なのだ。
だからこそ、芸を極めるほどに五体が整っていくギミックがいささか腑に落ちなかった。
結局そのままではダメなのか?
それともそれも含めて、"整う"ことへのアンチテーゼなのだろうか。
心のどこかで、自由な彼のまま世に認められていくストーリーを求めている自分がいた。

キャスト陣ももれなく秀逸。
ごめんなさい、私アヴちゃんさんをほとんど存じ上げなかったのですが、奇怪な仮面を突き抜けてさえ伝わってくる表情豊かさ。
とても愛しい犬王だった。
歌唱曲含め、音楽がとてもいい。
時代考証すれすれに工夫を凝らした照明演出などアイデアは楽しいながら、目玉のミュージックナンバーが「狂騒」を掲げるには気持ち遠く、どちらかと言うとドラマ部分の方が印象に残った。
良くも悪くも日本人の慎ましやかさを再認識した。

とは言え、大変稀有な歴史×音楽×アニメーションという、魅力的すぎるジャンル開拓。
めちゃくちゃ好きだ!!
ぜひ今後もよろしくお願いします、湯浅監督。
いやー、最近なんだか平家物語が熱いぜ!
嬉しい!!
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