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ナイトメア・アリーのdenizのレビュー・感想・評価

ナイトメア・アリー(2021年製作の映画)
3.8
「いつの間にか、超えてはならない一線を超えてしまった」

苦いぜ…激苦すぎるぜ…ギレルモ監督…。
どうしても題材が似ているのでつい対比してしまうが、
なんと救済の無いグレイテスト・ショーマン 。
バーナムさんもだいぶアレだったけど、ひとつひとつの分岐でギリギリの一線を超えなかったのがヒュー・ジャックマン演じるバーナムであり、一線を超え続けてしまったのがブラッドリー・クーパー演じる今作のスタンなのだろう。
どこかひとつを踏みとどまれたら。
人生まさに後悔だらけ。

舞台は1939年、アメリカ。
人に言えない過去を背負ったスタンが、地方の見せ物小屋で読唇術のスキルを身につけショービジネスの世界で成り上がってゆくストーリー。
肝なのは、けしてハッピーサクセスではないところ。
対比ばかりで恐縮ながら、グレイテスト・ショーマンで明るく前向きに捉えた様々なファクターのひとつひとつを、丁寧に裏面へひっくり返された感覚だ。
そうだよね…まあ現実はそんなうまくはいかないよね…。
眉間に皺を寄せながら砂を齧るような150分。
ブラッドリー・クーパーの最後の表情が、男の人生の全てを物語ったようだった。
しかしケイト・ブランシェットの人智を超えた美しさはいよいよ今世極まれり。
ルーニー・マーラのコケティッシュな可愛いさとのコントラストが良い。
(あれ?これは『キャロル』?)
ウィレム・デフォーの狂言口調ってどうしてあんなに聴き心地良いのだろう。

人が笑うその裏に、抱えきれない闇がある。
エンターテイメントって、一体なんなのだろう。
芸を見せる。
スキルを見せる。
自己の満足のために、観客はその対価として金を払う。
それがエンターテイメント。
スポーツはスキルだ。
思考を読む読唇術も芸だ。
では筋書きの無い格闘技は?
では動物園は?
では…稼ぎを得るために、自らの意思で生きた鳥を貪る「獣人」を眺めるのは…?

客が満足さえすれば、はたしてエンターテイメントは成り立ってしまうのか。

映画館の座席を立つのが、久々に重い一作だった。
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