カツマ

デンマークの息子のカツマのレビュー・感想・評価

デンマークの息子(2019年製作の映画)
3.9
復讐という名の傷痕は永遠のように負のスパイラルを刻む。それは人類の歴史であり、悲劇は今もなお上書きされる怨恨の途上に過ぎない。選民思想、移民問題、そして過激派によるテロリズム。それらは別々のようでいて、実は繋げることができる問題。そのスパイラルの狭間にはまり込み、抜け出せなくなってしまった悲しき顛末を描く、フィクションであってほしい一つの事例がここにはあった。

今年のノーザンライツフェスティバル二本目は、デンマークだけではなく、世界的な社会問題となっている移民問題を軸に、その対立の構図をクッキリと浮き彫りにした社会派ドラマ『陰謀のデンマーク』。監督のウラー・サリムは自身の両親がイラクからの移民であるというバックグラウンドを持ち、そのアイデンティティの在り処をも焼き付け、重厚かつ辛辣なメッセージを詰め込んだのが本作だった。二転三転する展開には巧みな脚本力が光る、対岸の火事ではないリアルな描写を湛えた作品だった。

〜あらすじ〜

ある日、デンマーク、コペンハーゲンで爆発テロが起きた。それは多くの犠牲者を生み、デンマーク史上最悪の惨事をもたらした。
それから1年。イスラム過激派テロを移民文化の権化として糾弾する、極右政党の党首ノーデルは国民から高い支持率を獲得していた。それは人民のテロへの恐怖と移民文化への反対論を分かりやすく可視化化するものでもあった。そしてそれを過激化した集団『デンマークの子供たち』という極右集団が暗躍するようになっていた。
一方、イスラム過激派組織に参加した19歳の青年ザカリアは、ノーデルの暗殺計画の実行犯として訓練を開始していた。ザカリアのお目付役でもある幹部のアリからの制止も効果なく、結局ザカリアは闇深い夜、ノーデル邸へと侵入。拳銃の引き金を引こうとしたその刹那、まさかの事態が巻き起こることになり・・。

〜見どころと感想〜

序盤からゆったりとした展開を持ち、睡魔に襲われるほどにそれは深く沈んだ流れをたゆたう。だが、その序盤の全てが伏線となり、中盤以降怒涛の反転劇へと身を投じていくことになる。最初は果たして今作の主人公が誰なのかすら分からないが、それがハッキリと明示された時、今作の混沌とした迷路のような道筋が見えてくることだろう。悲劇に悲劇を上塗りし、いずれは跳ね返ってきては武器を手にする悲しみの連鎖。それを止めることなど出来やしないのか、悲しみの深さに底がないこともまた痛烈に実感させられた。

俳優陣もあまり馴染みのない顔ばかりで、それがなお今作の主軸の置き辛さを暗示させる。監督の放つメッセージがまず先にあり、政治色、社会色が非常に色濃くなっているのは間違いない。鬼気迫る楕円を描く今作は後半に行くにつれてそのメッセージ性を増し、悲劇の色を濃紺にまで染める。そして大団円とも言えるのはどこかで見た光景。あまりにも悲しく虚しい。その結果へと辿り着く過程がすでに出来上がってしまっているのが恐るべき現代なのだ。

非常に重く、苦しく、救いすら見出すことができない。それだけに見終わった後の倦怠感は半端なく、欧州に漂う負のエキスを一気に注入されたような気持ちにさせられた。アラブ諸国の戦争を源泉とするテロ、混沌とする移民問題、それらのアンチテーゼとなるべく今作はその痛烈な刃のような問題提起を浮き彫りにした。

〜あとがき〜

重い、いや、重苦しい作品でした。どこかファティ・アキン監督の『女は二度決断する』に似たテイストを持っていますが、巧みな展開力と底辺の深さはこちらの方がズッシリきました。もはや行き過ぎた選民思想はナチス的であるし、移民を排除する思想はどこか歴史が循環しているようで恐ろしかったです。

ノーザンライツは毎年重い作品が多いのですが、今作は激重でしたね。結構鑑賞後に疲れが溜まった作品でした。ですが、現代に潜む膿を映像化するとなると、このくらいの闇深さは必然的に内包してしまうものなのか・・と絶望的な気持ちにもなった作品でしたね。
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