ギズモX

スペース・プレイヤーズのギズモXのネタバレレビュー・内容・結末

スペース・プレイヤーズ(2021年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

【新たなる遺産】

「これでみんな元通りだね」
※このセリフに25年かかりました

約18年ぶりになるルーニーテューンズ実写化映画。
まず、最初にはっきり言っておくが今作はギャグが弱い。
頑張っているのは分かるけど、それでもネタが盛大にスベってる。特に後半。
だけど、物語の最後でバッグスやレブロンが導き出した25年越しの結末には、素直に感動するしかほかになかった。
この『スペースプレイヤーズ』が示したものはあまりにも大きい。
なぜなら、ルーニーテューンズの実写化企画は悲しみの歴史だったからだ。

時は1988年。
WBのルーニーテューンズが実写の世界に殴り込みをかけたのは、ロバートゼメキスが監督した架空の1947年が舞台の『ロジャーラビット』がおそらく最初だ。
だが、これはせいぜいゲスト出演止まり。
注目すべきはダフィーダックがディズニーのドナルドダックとピアノ対決するぐらいで、どちらかといえばディズニーキャラクターのほうが印象に残る。

それから数年後、WBにとっては念願となるバッグスバニーを主役にした映画『スペースジャム』が1997年になってようやく公開された。
ルーニーテューンズのキャラクター達とNBAの大スター、マイケルジョーダンが共演する超子供向けのストーリーで、興行的には大成功。

でも、これが非常にまずかった。

過激なスラップスティックコメディが命のルーニーテューンズとバスケとの調和は肝心の笑いに不協和音を起こし、ギャグものとして見るなら落第としか言いようがない内容で、ルーニーテューンズの生みの親の一人、チャックジョーンズも苦言を呈する程だった。

そして、そのことにブチギレた一人の男がいた。

『グレムリン2 』で物語に全く関係ないバッグスとダフィーを開幕いの一番に登板させた映画界最強のルニキチ、あのジョーダンテである。

ダンテは当初予定されていた『スペースジャム2』の企画が頓挫したのを機に『ロジャーラビット』や『スペースジャム』には足りなかったルーニーテューンズらしさが全開な映画を新たに撮ろうとし
(しかもその作品が制作中に掲げたコンセプトは"アンチ"スペースジャム!)
更にダンテの友人でもあるチャックジョーンズが2002年に亡くなられたこともあって、雪辱戦と言わんばかりにネタの洪水なる作品『ルーニーテューンズ:バックインアクション』を世に放った。

『シャイニング』を覚えているだろうか。
キューブリック版『シャイニング』に怒った原作者のスティーブンキングが、小説に沿った物語で映画を作り直したあのいざこざ。
『シャイニング』では主人公ダニーがバッグスに真似られて"先生"と呼ばれていたが、実はこのルーニーテューンズでも『シャイニング』と同じようなことが起きていた。

しかし、このことが最大の悲劇をもたらす。

あまりにもネタがマニアックすぎた!!
タランティーノでもやらないようなレベルで!!
嵐の如く繰り出されるギャグのそのどれもが昔の映画のきわどいネタばかり!!

今作でもいろんな映画のネタがあったけど『ハリーポッター』とか『マトリックス』とかみんなが知ってる有名どころだからまだいいよ!
なんせ『バックインアクション』で登場した連中達は『ロボットモンスター』のローマンや『禁断の惑星』のロビーザロボットなど、映画マニアにしか絶対に分からないキャラクターやパロディだらけだったから、のほほんと映画館にやってきたファミリー層にはネタが全く理解できない異常事態が起こってしまった。

結局『バックインアクション』は興行的に大失敗。
その後予定されていた『トムとジェリー』の映画企画はお蔵入り。
ダンテは監督生命を絶たれてしまう最悪の結果に!

それからあまりにも長い時が流れ、バッグスらの活躍の場は小規模なカートゥーンアニメとなり、特に日本ではワーナーマイカルがイオンシネマに変わったことでルーニーテューンズの面々は人々の記憶から忘れさられてしまった。
物語の序盤ではテューンズワールドの面々は散り散りとなったことが説明されて、元の世界にいたのはバッグスだけだったが、あれはルーニーテューンズの今の現状を表している。

そして彼は叫んだ!
かつて『スペースジャム』でマイケルジョーダンを呼び寄せた時と同じように!
「みんな力を貸して」と!

バッグスとレブロンがWBのサーバー世界を駆け回ってかつての仲間達と家族を見つけだし、お互いの関係を修復して"本当の自分らしさ"を取り戻す今作のストーリーは、影に隠れたルーニーテューンズを再び表舞台に出して新しい時代に進めようとするWBの意思そのものではないか。

今作は正にルーニーテューンズ版『ドクタースリープ』と言えるような内容だ。
バッグスらが歩んだ二つの遺産をオマージュした物語に現代的な要素を加えて【新たなる遺産】とすることで、子供向けにしすぎてルーニーテューンズたるアイデンティティが消失した『スペースジャム』と、そのアイデンティティを取り戻そうとして失敗した『バックインアクション』の両方を救ってみせようと試みたのである。
これはレブロンがサブカル知識豊富だったことと、お祭り娯楽映画のノウハウが蓄積された今だからこそ成せたことで、数年前のWBには不可能だっただろう。

数多の屍の山を越えてルーニーテューンズは新時代へ!
ダンテがチャックを偲んでタイトルにこめた一つの願いは今ここに蘇った!
"活動再開"『バック・イン・アクション』だ!

ここからは個人的に思ったこと。
ネタバレ注意。

《テューンズワールド》
レブロンがテューンズワールドに落とされてからのドンちゃん騒ぎでは、ルーニーテューンズ黄金期のギャグが盛り沢山で嬉しかった!
レブロンが落ちた場所にはナイキマークの穴が!
それにカーテューンアニメではお決まりの名セリフ
"This Means War!"
もバッグスが大事な場面でカッコよくキめてくれて胸が熱くなった!
アルバコイキーのネタがなかったのが少し惜しいところ。

《アニメなDCワールド》
僕が一番嬉しかったのがこれ。
今作でのDCワールドは沢山のDCアメコミ実写化映画が制作されたにも関わらず、クラシカルなアニメの世界だった。
おそらく、あのシーンは『バックインアクション』でダンテが最初に考案してた幻のOPの再現だ。

https://youtu.be/DyRU0hOQKqQ

欲をいえばダックドジャースも登場してほしかったな。

《ポーキーとゴンザレス》
『バックインアクション』では"あること"が原因で出番が少ないことをボヤいていたポーキーとゴンザレスだが、今作では大活躍!
ラップも歌わせてもらえたぞ!
やったね!
スカンクは頑張れ!

《ローラバニー》
『スペースジャム』で初登場したローラバニー。
しかし《バッグスのガールフレンド枠》としてファミリー層に媚と体を売りまくる彼女の印象は当時のファンの間で賛否両論。
『バックインアクション』でのバッグスは彼女の存在自体を完全に否定した。
バッグス女装癖だもんね。
てな訳で、後に放映された『ルーニーテューンズショー』からはメンヘラなクレイジー女に大変身!
媚を売ることはなくなったが、性格にちょっと難があった。
いや、ちょっとじゃないな、超がつくほど難があった。

https://youtu.be/Tr7Infz4S0A

今作ではどうなったのかというと、生誕25年目にしてようやくバッグスのガールフレンドを卒業した模様。
失敗したら死に直行なアマゾネスの試練を受けてたり、NBA選手のネタをやったりとノリがかなり良くなった。
間違いなくルーニーテューンズの中で一番成長したキャラクターである。

《B》
おそらくこの映画の最大の笑い所であるのが"あの人"の登場シーン。
いつか誰かがやるんじゃないかなと思っていたら本当にやりやがった。
アレ思いついたのライアンクーグラーだろ。
あと、あのシーンで思い出したのが『グレムリン2 』のハルク登場シーン。
雰囲気がなんか似ているんだよな。
ポップコーン持ってるところとか。
彼の元コーチがハルクと闘ったことがあるので、とても感慨深かった。

※下のリンクは、あの人が例のシーンを見た時の反応。
 映画見た人だけが見るように!

https://youtu.be/OwJIvGoCtTA

《ビルマーレイ》
『スペースジャム』に本人役で出演したビルマーレイが驚くような場所に隠れているぞ!
僕は言われなきゃ絶対に分からなかった。
最高のサプライズだ。

《"That’s All Folks!"》
今回一番異色だったのがラスト。
ルーニーテューンズお決まりの"That’s All Folks!"はポーキーが喋るだけにとどまり、
その代わりにここから逆転するぞと意気込む重要な場面で一連のやり取りが導入され、僕はここにかなり驚かされた。

今作は"That’s All Folks!"《これでおしまい!》な作品じゃねえぞと言わんばかりだ。
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