ジェイコブ

ハスラーズのジェイコブのレビュー・感想・評価

ハスラーズ(2019年製作の映画)
3.8
ニューヨークのストリップクラブでダンサーとして働くドロシーは、育ての親である最愛の祖母と二人暮らし。満足に客も取れない中、苦労してやっと稼いだ売上も、大半を店に巻き上げられるため、手元に残るのは僅かばかり。貧しさと惨めな気持ちに苛まれるドロシーは、店のトップストリッパーであり、唯一自分を親切に扱ってくれるラモーナに憧れていた。ドロシーはラモーナに近づき、ストリッパーとしての稼ぎ方からポールダンスに至るまで手取り足取り教わった事で、次第に一人前に稼げるようになっていった。大金を稼げるまでに成長した頃、「リーマンショック」が起きる。ウォール街に冬の時代が訪れたその日を堺に、ドロシーとラモーナ、ストリッパーたちの人生は一変するのだった……。
ジェニファーロペスが助演・プロデュースを行い、リーマンショック後のニューヨークで実際に起きたストリッパー達の詐欺に着想を得た作品。本作は強欲さが原因で身を滅ぼした人間を描く現代の寓話でもあり、同じニューヨークを舞台にしているという点においても女版ウルフ・オブ・ウォールストリートと言うべきかもしれない。(ただラモーナ達は、ウルフ側の連中をカモにするクロサギのような存在だが)「悪銭身につかず」がこれほどまで教訓として残る作品も珍しい。
本作の中で最も印象的なシーンが、ドロシーが過去を回顧する際、記者に対して「1000ドルあったら何に使う?」と聞いた時だろう。ドロシーは「答えはその人が何を持っていて、何が足りないかで変わる」と続けた。それは正に、ドロシー達や当時のウォール街の銭ゲバ投資家がハマっていった欲望という名の底なし沼の本質を表している。人から見れば十分に幸せと思われていたとしても、その人自身はまだまだ満ち足りていないと感じる。そうして、目の前にある小さな幸せにも気付くことができず、悪事にまで手を染めてしまう。
ただ、ドロシーにとって、ラモーナは嬉しい時も辛い時も、側にいてくれたかけがえのない親友だった。両親に捨てられ、小さい頃から孤独で仲間や家族に飢えていた彼女にとって、ラモーナは正に姉のような存在であり、自分を地獄の縁から救い、笑顔をくれた恩人でもあった。最後に出会い方が違えば、結末は変わっていたかもしれないとラモーナは語った。しかし、ドロシーの性格を考えれば、ラモーナから頼まれたらどんな事でも断れないだろうし、形は違えど結局は同じ道を辿るのだろうな……と思う。