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KCIA 南山の部長たちのfujisanのレビュー・感想・評価

KCIA 南山の部長たち(2018年製作の映画)
3.8
韓国近代史を映画で振り返るシリーズ。

今回は、1979年10月26日に発生した朴正煕(パク・チョンヒ)大統領(当時)が側近のKCIAトップによって暗殺された『10.26事件』を扱った映画。

以前に書いた年表(以下)では★の部分となり、映画「ハント」等で描かれた全斗煥大統領政権下よりも前の時代を描いた作品になります。

□ 韓国の近代史(再掲)
1945 終戦(日本統治の終了)
~1948 連合軍による軍政
1948 大韓民国樹立、初代大統領:李承晩
1950 朝鮮戦争 ~ 1953
1961 朴正煕によるクーデター
1963 朴正煕大統領による軍政
★1979 朴正煕大統領暗殺
(ソウルの春、民主化運動の高まり)
1980 全斗煥大統領による粛軍クーデター、軍政開始
1980 光州事件 ←映画「タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜」
1983 大統領暗殺を狙ったラングーン事件 ←映画「ハント」
1987 6月民主抗争~民主化宣言
1988 盧泰愚政権
1988 ソウルオリンピック開催

ちょっと乱暴な説明になりますが、本作の背景は、
朝鮮戦争後にクーデターによって軍事政権を樹立した朴正煕が、共に戦った戦友たちを要職に就け政権運営をするものの、民主化運動の高まりの中で側近によって暗殺される。

これで、いよいよ民主主義国家になれるかと思いきや、これまた朴正煕の側近の一人だった全斗煥(チョンドファン)が軍事政権を引き継ぎ、さらに酷い軍事政権が1987年まで続いてしまう、という流れになるかと思います。

難しいのは、概ね悪者のイメージが定着している全斗煥に比べ、朴正煕は苛烈な軍政を敷いたものの、戦後の混乱期を立て直した功労者という評価もあることで、娘の朴槿恵(パク・クネ)が一時大統領に就任できたことからも、評価が二分していることが分かります。



映画は、そんな朴正煕大統領が暗殺された1979.10.26の40日前から物語が始まり、イ・ビョンホン演じるKCIA(韓国版CIA)のトップであるキム・ギュピョンが、忠誠を誓う大統領に対して、いかに暗殺の思いを決心していくかという、心の移り変わりを描いていました。

本作は冒頭、『事実に基づいたフィクションである』というテロップから始まり、朴正煕大統領以外の名前は全て微妙に異なる名前になっており(例えば主人公キム・ギュビョンも、実際はキム・ジェギュという名前)、

ほぼ事実の内容でありながらフィクションという体裁をとっていることからも、この内容が韓国の方々にとって今もセンシティブな内容であることが伺えます。

そんな中、ウ・ミンホ監督みずから担当した脚本は、話をイ・ビョンホン演じる部長の心境と行動の変化に軸を定め、彼が見た歴史の視点で描かれているため分かりやすく、エンターテインメント作品としても優れていました。

とりわけ、最後の暗殺シーンの長回しは見事で、台本通りなのか、その場のアドリブなのか、はたまたハプニングなのか分からない、激情が交錯する映像はとてもリアルで、そこまでの『静』の展開から、一気に『動』に弾けた転調としても見事としか言いようがありませんでした。


以上、何を今さらというタイミングでのレビューになりましたが、ざっくりと歴史を把握した上でご覧になると、さらに面白いかと思います。暗殺事件を面白いというのも不謹慎ではあるのですが、すいません、映画としてとても面白かったです😅


余談:
宇多丸さんのラジオ書き起こしがとても興味深いので、コメントにリンク貼っときます。

関連:
ハントのfujisanの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks映画
https://filmarks.com/movies/104327/reviews/162826041




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