カルダモン

1917 命をかけた伝令のカルダモンのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.4
右に左に手前に奥にスルスルと並行移動するカメラ。ひとつながりのカットで描かれた本作はまるで絵巻物を見るような感覚だった。

1917年4月6日第一次大戦のイギリス軍。紙切れ一枚の作戦中止命令が人命1600を左右する。重大な伝令を背負わされたトムとウィルは決死の覚悟で前線のマッケンジー大佐の元へ走る。

開始数分で早くも方向感覚を失った私は、伝令を届けることなど不可能だと悟った。どの方向に向かえばいいのか、どこまで行けばいいのか、劇中でちゃんと言われていたはずなのに綺麗サッパリ記憶が飛んでしまった。私はここで早々に死ぬのだろう。

ほとんど泥と化した死体を踏み分けながら、なんで自分がこんな目に遭っているのか問い続けた。命がいくつあっても足りるわけがないと。
なんの装備もなくIMAXスクリーンの中へ放り込まれた私は、なす術もなく塹壕で身をかがめ、死屍累々を掻き分けて、有刺鉄線を掴み、崩落の土煙を吸い込んで、死に物狂いでついて行った。トラックが泥にスタックした時、思わず力を込めてあのトラックを押した。

ふと見渡すと長閑な風景が広がっている。
虫の音や、風のそよぐ音も聞こえる。
桜が舞っている。牛が死んでいる。
業火に燃える協会。
照明弾に照らされる煉瓦造りの街。
地獄のような光景が絶望的に美しい。
こんな光景を見せてくれるサム・メンデス。そして魔法のような撮影でもって逃げ場を与えないロジャー・ディーキンス。なんてことをしてくれるのだろう。
そんな地獄の光景に説得力を持たせてくれたのは、ウィリアム・スコフィールド(ジョージ・マッケイ)トム・ブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)の演技。どこからどこまでがひとつながりの映像なのかわからないけれど、この失敗できない感じはただ事ではない。

自分の人生も数十年間のワンカット。幸いにもまだ途絶えることなく続いているだけだ。