ねまる

ベイビーティースのねまるのレビュー・感想・評価

ベイビーティース(2019年製作の映画)
4.2
病気の女子高生と、彼女が恋に落ちる不良と、娘を心配するパパとママなんて設定、
少女漫画の実写化作品に山ほどありそう。

それでも、オーストラリアで作られたこの映画には、御涙頂戴ではなく、カラフルでPOPで美しい日々があった。何が絶望かも分からないのに、遠い未来の暗闇を憂いている日本の若者には無い眩さが彼女にはあった。

今だけを生き続けるモーゼスが、怖いものが何も無いモーゼスが、リアにとっていかに眩しいか。モーゼスは不良と書いたし、盗みを働くヤク中だけど、刹那的に生きてる。その一瞬一瞬の生の側に自分が選ばれたら嬉しいし、今を生きるドキドキをこんなにも感じられる。モーゼスが驚くほどチャーミングだし、それでも彼の繊細さに、あの奥まって潤んだ目にヘンリーを知る。

ヘンリーもアナも、彼女を病気として扱ってはいないし、本人の前でも可哀想という目では見ない。だからこそ娘を失うかもしれないという不安や悲しみを押し殺して喧嘩したり、不適切な行動を取ったりする。

私はこのモーゼスの、ヘンリーの、アナの、同じ感情にいることがこんなにも辛い。こんなにも苦しい。これを演じるとは、なんて役者というのは酷な仕事なんだろう。ともすれば、芸能人(キラキラ)と思い浮かべてしまう役者という仕事。普通の人はこの感情と向き合えない。

たった4人の主要キャスト。
語られすぎない感情。
色付く毎日と、誰かが誰かを思う気持ちを切り取った美しい映画だった。
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