カツマ

マリッジ・ストーリーのカツマのレビュー・感想・評価

マリッジ・ストーリー(2019年製作の映画)
4.6
こんなに泣ける映画だなんて思ってなかった。観終わってもまだ、仲睦まじい家族だった頃のモンタージュを目にするだけで涙が止まらなくなってくる。
人生は些細なことの繰り返しで、上手くいっていると思っていたのにそうでもなくて、悲しい結末が待っていたとしても、大丈夫そうに生きていく。時に泣きそうになりながら、かつて愛した人との想い出が過去になっても、人生という物語は続いてく。そんなことを想った、だってそれは悲しくなるほどに真実だったから。

来月に配信スタートを控えるNetflix配給の今作を東京国際映画祭のスクリーンにて先行鑑賞。これまでも人間同士の悲喜こもごもの愛憎交えるドラマを映像化してきたノア・バームバック監督の最高傑作になり得る一本で間違いないと思う。スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバー共にバームバックの想像する会話劇の世界観に完璧にフィット。ほろ苦い離婚調停劇の先にある人生の賛歌ともいえる大団円に大粒の涙が溢れた。

〜あらすじ〜

ニコールとチャーリーは8歳の息子ヘンリーとNYでの3人暮らし。チャーリーは舞台監督で、ニコールはその主演女優を務めてきた。しかし、二人の10年間の夫婦生活も終わりを告げることになる。ニコールはテレビの仕事を受けるために実家のあるロサンゼルスに息子と共に行くことになり、チャーリーはNYでブロードウェイへと進出、二人は仕事面では順調だった。離婚もそのまま当人同士の話し合いで穏便に収めるはずで、二人ともそう望んでいたはずが、ニコールが同僚に弁護士のノラを紹介されたことにより、二人の今後はヘンリーの親権を交えた調停へと持ち込まれることになってしまう。それによりロサンゼルスとNYの二重生活を強いられるチャーリー。決して望んでいたわけではなかった離婚調停にはニコールの胸中も複雑で・・。

〜見どころと感想〜

テーマは至極シンプルで、些細なことの積み重ねによって離婚へと至った夫婦が、次第に調停、裁判へと持ち込まれていく様をときにコミカルに、ときにシリアスに人間の感情のような表裏を伴いながら描き出している。ランディ・ニューマンによる抑制の効いた古き良きサウンドトラックをバックに、バームバック流の会話の出し引きを盛り込んだ、重厚かつ人間らしいドラマであった。

主演の二人の熱演が素晴らしく、他のキャストではこの映画は完成しなかったと思えるほどの必然性を感じさせてくれる。特にアダム・ドライバーはそのキャリアでも最高峰の演技を披露。最後の歌のシーンにこの映画の全てが詰まっていたと思えるほど、生きていくことの難しさを画面上で感情的に表現した。少しずつ滲む涙の跡もまた、悲しみの代償のように二人の頬を濡らしては、言葉では表現できない感情を浮かび上がらせた。

ニコールの家族のコミカルパートは完全にコメディで、弁護士役のローラ・ダーンも存在そのものがどこか面白いのだけど、そこからシリアスへとギアを入れると一直線に重みが増す。と思いきや、突然感性の繊細な部分に語りかけては、もう戻れない時間に涙した。

バームバックは都会的でニヒルな質感と重厚なドラマが持ち味の監督だけれど、彼のスタイルが完成された作品だったのではないかと思う。余韻のようにエンドロールは降りていく。涙の跡を拭き終わるまではどうか明るくならないで、と思いながら。

〜あとがき〜

素晴らしかったです。離婚調停をテーマにしてここまでの人間ドラマを作り上げてくるだなんて、自分が映画に求めている多くの要素が詰まっていたような気がします。アカデミー賞にかかる可能性もあるそうですが、それも完全に納得。やはり素晴らしい映画はスクリーンで見るべきだということを再確認しましたね。来月にはネトフリ配信で見ることができますが、もっと多くの人にスクリーンで見てほしい作品がまた一つ増えました。

自分はまだ未婚ですが、結婚というのは難しいものだということを教えてもらったような気がします。楽なことばかりじゃないからこそ、その絆に意味を持って生きていきたいと思えた作品でした。
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